(傘を差し出すシーンは)象徴として欠かせないシーンでした
――深玲が薫に傘を差し出すシーンがそのまま薫と栞里に入れ替わってるイラストにはやられたなーと思いました。
塩こうじ:あれはもうAkeoさんからしっかり指示があって、同じ構図で絶対一緒って分かるようにしてねって。ポーズとかの話で最初からこういうのがいいって言われたのはこのイラストだけだもんね。一緒なのが大切だからって。
Akeo:「恋、降る」を書いた段階で、あのシーンがあるっていうのは決まってたので。薫が深玲にしてもらったことを今度は栞里にしてあげるって。深玲が持ってなかった素直さを薫が持ってるからこそのシーンなんだろうな。薫は成長してると思うので、その象徴として欠かせないシーンでしたね。




薫の両親は自分たちが親として生きるって覚悟が決まっている人たちなので、そういうところを見てもらえるとうれしいですね
――ここからはシリアスな部分についても伺いたいと思います。薫はお母さんが不倫してできた子どもだよって話、これをそのまま受け取っていいのかな?って思ったんですね。薫が栞里の父親に対して行動に出ようとしたとき、珍しくお母さんが割り込んできて、大人の男の人って危ないんだよみたいな話をしますよね。今までこういう姿を見せてこなかったので、なにかあるんじゃないかと感じました。
Akeo:作品があまりにも生々しくなっちゃうっていうのもあるんですけど、現実的に考えて、お母さんが自分の経験してきたことをすべて薫に話すわけはないし、あえて自分が悪者になる、そう思われてもいいっていう覚悟が決まっている人だと思うんですね。
いわゆる”不倫”だったかどうかはご想像にお任せしたいところではあります。でも、セリフひとつひとつの細部に気づいてもらえるのはうれしいですね。今作は各々が見る世界は当然違うよねってところも書きたかったので、薫はまだ自分の世界しか見えてないと言ってもいいと思うんです。作品のなかで栞里の世界も少し見えるようにはなってきたけど。


塩こうじ:作中で語られる機会があった時、どう思うかは見た人次第って感じだよね。
Akeo:そうだね。声優さんに渡してる資料には全部書いてあるんですけどね。お母さんとお父さんの年齢差が地味にあるとか、本編で語ることはないけど、薫の両親は自分たちが親として生きるって覚悟が決まっている人たちなので、そういうところを見てもらえるとうれしいですね。
塩こうじ:親たちは年齢設定も大切になってくるもんね。栞里のお父さんがちょっと若かったり、薫のお父さんは他のお父さんよりも年上だったり。
Akeo:たしかに。あと、誰かに言われたんだけど、公式サイトを見て、薫と両親の血液型の組み合わせがおかしくないですか?って。
塩こうじ:プレイしてねとしか言えないやつだね。
――キャラクターの目の色が親子で同じってところ、最初から仕込まれてたのに全然気づかなかったと思って、やられたなって思いました。
塩こうじ:そうなんですよね。外見的な特徴で言うと、薫とお父さんは似てないんですね。でも、仕草とか服装の雰囲気とかは似てるんです。目の雰囲気は完全にお母さんサイドだし。だけど、お母さんは身長が高いわけじゃない。
Akeo:お父さんも薫も身長高いから、ちょっとミスリードじゃないけど、あえてそういう設定にしてみたりとか。でも、薫は敦志の影響受けてると思うんだよなーしゃべり方とか性格とか。
――飄々としてるところとか似てますよね。
Akeo:そういうところは環境もすごく大きいんじゃないかと思います。親子の関係のなかでそういう性格になるっていうのは。
栞里の人生において目を逸らせなかったことなんだなって、思って頂きたいなというのはあります
――作中では虐待や自傷行為などショッキングな描写があります。こういった展開を導入するにあたって、葛藤はありましたか?
Akeo:そうですね。やっぱり誰にとっても気持ちがいい話ではないと思うんです。万人に受け入れてもらえるわけじゃない、決して軽く扱っていいことでもないって。
栞里という人と向き合って書くにあたって、高校生ながらにお兄ちゃんを忘れたいって強く思うとか、想い出の地巡りをしたいとか、大きな感情のうねりがないとそこまでに至る人って少ないと思うんです。
現実を見たときに、栞里は常に希死観念と戦っていると思うんですね。少なくとも本編の途中までは。そういう人格を考えたときに逃げちゃいけないところかなって。人によっては見るのもツラいってところはあると思うし、申し訳ないなって思うんですけど、ここでしっかり書いておきたかったって思いは強くありますね。
塩こうじ:苦手な方だったり、トラウマを持っている方もいると思うので、絵では暴力を振るっているところは描かないとか、ささやかですけど、配慮をするようにしてます。
怖いけど続きが気になる方には本当にキツいシーンだけ、ボイスをオフにしてもらうとか、すごく良い演技をしてくださっている声優さんにはとても申し訳ないんですけど、そういう選択肢もあるっていうのは思っています。


Akeo:結果としては書かざるを得なかった。描くなら自分としても向き合って書くべきだと思ったんですよね。読んでくださった方がツラかったけど、栞里の人生において目を逸らせなかったことなんだなって、思って頂きたいなというのはあります。
書くことによって評価がマイナスになったとしても……という覚悟はしていました。実際にどこまで入れるのかっていうのは何回か内部でも議論になったり。でも、書かないんだったら、もう別の企画をやったほうがいいよって話までして。
塩こうじ:しましたね。
――栞里のお父さんはスイッチが入ると本当に怖いですし、栞里が感情を失っているときの目にも怖さを感じました。たしかに苦手な人はいると思いますが、作品としての説得力は、これらの描写がかなり持っているんじゃないかと思います。
塩こうじ:ありがとうございます。
Akeo:栞里の父の怒り方とかつめてくる感じとか経験がある方もいるかもしれないですけど、決してフィクションじゃないです。書くときもすごくいろんな人から話を聞いたり、過去を思い出したりって作り方をしていて。それを演技に落とし込んでくださった渡辺紘さんはすごい方だなと思います。
収録のときは飄々としてらっしゃったので、ご本人は明るい感じの方なのかなと思いつつ、役にすごく向き合ってくださったんだろうなと。



