LYCORISが手がける百合ビジュアルノベル『嘘から始まる恋の夏』は、クラウドファンディングで目標金額の280%を達成し、発売前から注目を集めていた。ゲーム発売後にその人気はさらに高まり、ドラマCDや短編小説など派生作品が次々と生み出され、「嘘夏」の世界を広げてきた。
2024年8月からはコミック百合姫にてコミカライズ『嘘から始まる恋の夏 -squall-』の連載がスタート。今回は同作の単行本発売を記念して、LYCORISのAkeo氏、塩こうじ氏にインタビューを実施した。
インタビュー前編は『嘘から始まる恋の夏』発売後に発表された派生作品を振り返る。後編では『嘘から始まる恋の夏 -squall-』の漫画を担当した、ろここ氏にも加わっていただき、作品の魅力や裏話など、内容盛りだくさんで語っていただいた。


LYCORIS プロデューサー、シナリオライター、小説家。代表作は『彼女のカノジョと不純な初恋』(電撃文庫)など。


LYCORIS イラストレーター。代表作は『君の先生でもヒロインになれますか?』(電撃文庫)、『好きな子のいもうと』(角川スニーカー文庫)など。
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ゲーム本編では薫と栞里のいちゃいちゃが少なかったので、そこを楽しんでいただきたいなって気持ちがありました
――『嘘から始まる恋の夏』が発売されてから、約1年半の間に関連作品が数多く展開されました。各作品を振り返っていきたいのですが、まずはLYCORISのpixivFANBOXで2024年1月に公開された小説「甘酒でカンパイ!」が生まれた経緯を伺えますか?
Akeo氏(以下、Akeo):深玲が好きと言ってくれる方が多かったのですが、ボイスドラマ「恋、降る」とゲーム本編の間を描いたものは少なかったんです。なので、薫と深玲とのやり取りの空気感をまた味わってほしいと思って書きました。ちょっとずるいですが、SSは公式二次創作をうたっているので気軽に書いてます。
コミカライズのシナリオを詰めていた時期で、ふたりを書きたい欲があって。もう未来が決まっているので、その間を埋めていく作業が僕にとっては楽しいというのもありました。
――ドラマCD「どうする?どうなる?半♡同棲」は、ゲーム本編ではシリアスなシーンが多かったのに対して、かなりいちゃラブな作品になっていましたね。
Akeo:ゲーム本編では薫と栞里のいちゃいちゃが少なかったので、そこを楽しんでいただきたいなって気持ちがありました。困難を乗り越えたふたりだからこそ「その後の空気感を見て安心してもらえるかな?」という思いもありました。
あと薫と栞里が付き合ったらこうなるんだよっていう意外性の部分ですかね。もともと構想があって、本編でも栞里なら部屋をキレイなまま維持できるんだろうねみたいなセリフを入れていたんです。そういう伏線を拾っていきたいというのもありますね。
――ゲーム本編とのつながりはほかにもありますよね。
Akeo:本編で想い出の展望台に入れなかったシーンがあって、もともとはその展望台にちゃんと入るシーンを本編のエンディングに使おうと思ってたんですね。でも、なんかドキドキしないなっていうことで観覧車に変えたんです。そこでふたりに想い出の展望台からの景色を見せてあげられなかったことが心残りだったので、ドラマCDで思い出の地巡りアディショナルタイムとして入れてみました。
――制作でこだわったところはありますか?
Akeo:今回は音声編集も自分でやったので、僕のこだわりが入ってます。SEを使った演出が楽しいなと思っていて、カップを動かす音とか冷蔵庫を開け閉めする音とか、セリフとのリズムで笑いの空間が作れたと思います。
――個人的には栞里が嫉妬するシーンを楽しむ作品でもありました。
Akeo:この話の薫ってノンデリなんですよね。なにかと「深玲さんの~」ってなったりとかして。実はあのなかに重要な伏線が入ってるんです。『嘘から始まる恋の夏2』を出せたら、これが伏線だったんだ!この人性格悪いなって思われるようなものが(笑)。
――それは今後のお楽しみってことですね。収録はいかがでしたか?
Akeo:裏話になるんですけど、ゲームのときは声優さんが1人でセリフを録ってるんですが、今回はアニメみたいなかけあい収録にしてもらったんです。小市さんと石見さんが同じブースでキャラクターを演じたときの化学反応がすごくて、空間を生み出すってこういうことなんだなって思いました。
――アフタートークでも小市さんと石見さんがおっしゃってましたね。
Akeo:そうですね。ゲーム本編の収録としてははじめての機会ということで、おふたりの演技が見られる収録は楽しかったですね。本編よりも振り幅を広めに書いたのもあって、自由な感じで演じていただいたのもよかったなって思います。


――リラックスしたふたりを描いたイラストもかわいいですよね。
塩こうじ氏(以下、塩こうじ):色味もふくめて全体的に思いっきり明るさに振ろうと思って描きました。ゲームと違って動かさない絵なので、本編よりは肌の塗りをリッチにできたかなと思います。
部屋着も普通だったらあんまりできないような形にしたりとか、ヘアピンが地味に色違いでおそろいだったりとか楽しく描きました。
――小説「どうする?どうなる?半♡同棲! エピローグ・ワンモア+1〜乙女のSNS事情〜」では、栞里の新たな一面が見えますよね。
Akeo:栞里ってお父さんの影響がものすごく強いんです。けれども薫はそういうところも引っくるめて栞里が好きで可愛いと思っている、と表現したいと思いました。
もともとはゲーム本編にGPSアプリ入れましょうみたいな話をしてたんですけど、塩こうじさんからなんか違うって言われて。それでも僕は栞里を表現するために重要なことだし、単純にかわいいなと思うところもあったんです。最初の彼女だし、束縛したくなっちゃうところもあるだろうし。あと、薫が絶対に嫌がるってところも書きたかった。


人って内面でなにを考えているかわからないから、どこまでいってもわかり合えないって思っているところがある
――次にCAMPFIREの支援者特典だった「その日、第一歩」に触れたいと思います。大人たちのかっこよさが光る小説でした。
Akeo:薫のお母さん・小春は本編では朗らかなシーンが多かったんですけど、実は意志の強い人なんだよって書きたかったのがありますね。担任の朝日先生は本編で描かれている以上に薫と栞里のためにいろいろ動いてくれているので、頼りがいのあるところも書いておかないとって気持ちもありました。
あと、新居探しの大変さってみなさん経験したことがあるんじゃないかと思っていて、でもサイトで物件を見るのって楽しかったりするじゃないですか。そういうワクワク感を入れたかったのもあります。
――『嘘から始まる恋の夏』に登場する大人たちは個性が立っているキャラクターも多いですし、彼・彼女たちが活躍するシーンを多くの人に読んでほしいなと思いました。
Akeo:特典ってところが難しいですよね。支援してくださったのに、あとで読めるとなったらガッカリさせちゃうかなとか、難しいところもあって。細かい小説が増えているので、1冊にまとめたものを出したいなと言う気持ちもありつつ……。
ちなみにこの作品を出すときにもうひとつの候補だったのが、莉久が栞里を好きになる話だったんですよ。
――えっ?めちゃくちゃ読みたいです!
Akeo:たぶんそう思ってもらえるだろうと思って、もっと多くの人に読んでもらえるタイミング、それこそ小説のまとめ本を出すときがあれば、書き下ろしとして入れたほうが喜んでもらえるかなというところもあって。
CAMPFIREのプロジェクトのときは知らなかったけど、本編を遊んで莉久のことが好きになったって方も結構多いと思っていて、そういう方が読めなくなっちゃうのは残念だなって、そんなふうに考えてました。
――次に公開された作品は短編小説集「日々折々」ですね。
Akeo:コミカライズを読ませてもらって、僕自身、得るものがありました。コミカライズ1話の最後のほうで描いていただいたペンギンのぬいぐるみが印象的だと思って、ちょっとペンギンの裏話を入れるかみたいな感じで書きました。
あとは本編で無意識に書いたセリフで拾えるなってところから番外編を書いたりすることが多くて。本編のお泊まり会のシーンで薫のデスクに深玲の写真が飾ってあって、不意打ちで撮ったんだよみたいな話から、そのシーン書いてみようみたいな感じでいろいろつなげたり。
あと以前のインタビュー(記事リンク)でもお話したんですが、朝日と深玲の会話は無限に書けるので。深玲の本なのに朝日も結構しゃべってるんですね、深玲の視点で描かないで、周りから見た深玲を描いていく。前作の『FATAL TWELVE』のときから書いていることなんですけど、人って内面でなにを考えているかわからないから、どこまでいっても自分の想像した相手を信じるしかないと思っているところがあって。その僕の考えが「日々折々」には反映されてます。
――朝日が倫理観と個人的な感情のバランスを取る描写もありますよね。
Akeo:深玲が社会的にインモラルなことをしているのは間違いない。それに抵抗感を覚えたり、疑問を持つことは当然あると思うんです。それを否定するのは正しさでもあるけど、でも友達だから受け止める部分もある、いいところも悪いところも認めた上での人間関係を描けたらと思っていました。


――お話のなかで出たペンギンのぬいぐるみと一緒にリラックスしている深玲が印象的な表紙になっていますよね。
Akeo:もともとは既存のイラストを使う予定だったんです。でも、この表紙に新しいイラストがあったらいいよねって何回か言ってたら、塩こうじさんが描いてくれました。本編とはちょっと違う深玲の部屋着で気の抜けた日常っぽさがあって、すごく良いカットですよね。
ペンギンのぬいぐるみが踏まれてるのがかわいい。普段こんな感じで扱われてるんだろうなっていうのが見えてるところとか。
塩こうじ:ぬいぐるみはクッション代わりに使える人と使えない人がいて、深玲はたぶん使えちゃう人なんだろうなって思って、そのイメージで描きました。
ルートにするとゲームのなかで正史になってしまう。それならIFがいいんじゃないかと思いました
――次にボイスドラマ『嘘から始まる恋の夏 -Parallel Palette-』のお話を伺います。クラウドファンディングは大成功でした。
Akeo:みなさんから深玲ルートが見たかったという声を多くいただきました。これも以前のインタビューでお答えしたことなんですが、ゲームの開発途中までは選択肢の分岐があったんです。なので、構想としてはもともとあったものなんです。でも、本編は薫と栞里の話だし、ルートにするとゲームのなかで正史になってしまう。それならIFがいいんじゃないかと思いました。
スケジュール的なタイミングもあって、声優さんたちも引き受けてくれることになったので、支援いただくコースなどを考えて進めました。ゲームの目標金額が200万円、ボイスドラマの目標金額が300万円だったので、不思議に思った方もいるかと思うんですが、ゲームのときは支援いただいた金額以上にお金をかけた部分があって、今回は支援いただいたなかで収めないと自分たちが今後活動できなくなると思って金額設定しました。
――そのなかでストレッチゴールも達成しました。
Akeo:ありがたいです。ミニボイスドラマとキャストトークどっちがいいかなと考えていたんですけど、『どうする?どうなる?半♡同棲』のときに評判が良かったので、キャストトークにしました。
ストーリーは短編小説でもできるけど、声優さんたちのお話はこういう機会じゃないと聞けないし、コメントをもらうのとは全然違うものになると思ったのでラジオみたいなものを作ることにしました。


――キービジュアルはドキドキするイラストでした。
塩こうじ:支援していただくために、まずは興味を持ってもらうことが目的としてありました。その場合は距離が近いほうがいいし、キャラクターのどちらかは画面のこちら側に視線を向けたほうがいいと考えたんですが、それが不自然にならないようにしないといけない。そこから薫が深玲を見つめて、深玲は目を逸らしているというコンセプトになりました。
イラストを描くときは視線に気を配っていて、個人的な好みは画面のこちら側をまったく気にしないのが好きなんです。でも、画面を見てる側と視線が合わないと訴求力が下がってしまうので、いつも悩みどころではあります。
Akeo:プロジェクト立ち上げのときはまだストーリーの概要しか決まってなくて、どういうシチュエーションがいいのか定まらない状態でキービジュアルを描いてもらう必要がありました。深玲の家は出てくるだろうけど、ライティング的に映えないとかいろいろ考えたりして。
塩こうじ:生徒と先生っていう関係性を強調したかったのもあって、深玲が先生のビジュアルではないので、教室にしようと。あとは年齢差のある百合なんだって伝わればいいかと思って描いたところもあります。
Akeo:手を見てほしいよね。握っている手と握り返せない手、腰に回したけどつかめない手とかね。
――現時点で制作の進捗はいかがですか?
Akeo:シナリオを書くのが過去イチでツラかったです。本編の薫と栞里がいて、その後のふたりもいる。そのなかで、IFでは薫と深玲になにかある物語になる。もう栞里がすごいこっちを見てくるんですよね。それで手が止まるんです。ごめん栞里って思いながら書きました。僕が苦しみながら書いたところはみなさんが楽しんでくれることが多いので、その意味ではシナリオに期待していただいてもいいんじゃないかな(笑)。
とあるクライマックスのシーンでは、シナリオを書きながら涙がぶわっと出てきちゃって号泣しながら書いて、終わった後、こんなに高まったものはひさしぶりに書けたなと思いました。
『嘘から始まる恋の夏』の世界で結ばれるのってかんたんなことじゃないし、栞里との三角関係がどうなっていくのか、深玲が好きな人には間違いなく楽しんでもらえると思います。
『嘘から始まる恋の夏 -Parallel Palette-』にはビジュアルブックとして、ゲームのイベントみたいなものが収録された本も一緒に出します。そこで制作中のものをちょっとお見せします。


――おお!めっちゃかわいい!
塩こうじ:実はこの反対側に栞里もいる設定なんです。
Akeo:『嘘から始まる恋の夏 -Parallel Palette-』は尺が2時間あるので、物語の核になる部分とちょっとした遊びの部分があって、このイラストは遊びみたいな部分ですね。どういうシーンなのかドキドキしていただければと。もう少ししたらちゃんとした報告ができると思います。
莉久は活発なイメージだし、女子高生らしい服を着てる印象もあって、TikTokとか見ながら考えているのは莉久の服って感じです
――衣装イラスト集「USONATSU FASHION MAGAZINE」では、おしゃれな衣装がたくさん並んでいますよね。
塩こうじ:ありがとうございます。ゲームに立ち絵を見る機能がないので、こういうものを作ろうという話になりました。
Akeo:ゲームをリリースしたときから作ろうって話はしてました。塩こうじさんがいろいろとファッションを考えてくれますし、ゲームで少ししか出ない服とかもあるし、立ち絵サイズの関係で腰から下はカットされてしまうので。そういうものをお見せする機会ができてよかったですね。
――莉久が愛用している「Donuts Daisuki」ってブランドだったんですね!?
塩こうじ:よくあるTシャツのロゴとか人が着てると気にならないのに、ゲームのキャラが着てると読んじゃうみたいなところがあって、もうネタに走ろうと思って。
Akeo:莉久の服、意外とスカート短いんだよね。本編だと太ももとか出ないから気づきにくいけど。
塩こうじ:たしかに。莉久は活発なイメージだし、女子高生らしい服を着てる印象もあって、TikTokとか見ながら考えているのは莉久の服って感じです。
Akeo:今は公開されてないテクニカルデモでしか見られない、薫の浮かれ水着とかも収録できてよかったよね。
塩こうじ:薫のスクール水着の下の部分とか衣装イラスト集がないとわからないしね。


――とくにお気に入りのファッションはありますか?
塩こうじ:深玲の私服のタイトスカートで丈が膝下まであるのがお気に入りです。
あとは「らしさ」では、莉久のファッションは全体的にお気に入りです。悩まないでスパッと決められたし、描いていて楽しかったです。アラサー向けの雑誌を参考にした花世のファッションもお気に入りですね。
――表紙は描き下ろしと伺いました。
塩こうじ:最初は立ち絵をそのまま使おうという話だったんですが、実際に入れてみたら新しいのにしたいなと思って、描き直すことにしました。
Akeo:じゃあ、お願い!って忙しい時期に描いてもらいました。完成したのを見て、作りたい本が作れてよかったなと思いました。
――キャラクターの誕生日に合わせて販売されたキャンバスアートはいかがですか?それぞれシーンが異なりますよね。
塩こうじ:莉久はもうひたすらかわいくしたかったんです。莉久といえば赤面なのでそれも入れて、かわいい格好してほしいなと思って。中華街のときみたいにガーリー寄りな服を着るときもあるはずなので。


栞里と薫に関しては画面の向こうにお互いがいるイメージで描きました。本当は同じ場所でもいいかなと思ったんですが、薫は海がバックにあったほうがいいなと思って今の形になりました。




最初に描いた深玲のキャンバスアートは花世と待ち合わせしているイメージですね。もう自分の好みの妄想シチュエーションを描いて、Akeoさんになにか付けてって言いました。


Akeo:深玲のときは特典小説をつけたよね。結構ドキドキするやつ(編注:『朝の金木犀~2023 霜月深玲誕生日』)。
インタビュー後編に続く――。


『嘘から始まる恋の夏 -squall-』単行本情報


『嘘から始まる恋の夏 -squall-』
発売日:2025年3月17日(月)
▼収録内容
・ろここ先生描き下ろしマンガ
・原作Akeo先生書き下ろし小説
・原作塩こうじ先生新規描き下ろしイラスト
・原作キャストコメント
橘薫/CV:小市 眞琴
霜月深玲/CV:松井 恵理子
朝日花世/CV:芝崎 典子
【一迅社オンラインショップ】
▼有償特典
特典1:クリアカード(ポストカードサイズ)
特典2:塩こうじ先生描き下ろしアクリルスタンド
▼一迅社オンラインショップ限定購入特典
特典:キャラクター設定資料+書き下ろしSS掲載リーフレット
一迅社オンラインショップ リンク


【メロンブックス】
▼限定版
描き下ろしアクリルスタンド+イラストカード付き
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▼通常版
イラストカード付き
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