「告白ってもっと ロマンチックな物だと思ってた」
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』Lily Spinel / HUBLOTS / mirai works
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』はテキストベースの百合恋愛アドベンチャーだ。
一通の脅迫状をきっかけにした恋の始まりは、せつなく苦い。
物語の前半、プレイヤーは少女たちの感情の波に翻弄され、ひたすら心の痛みに耐えなくてはならない。試練があるからこそ、あとに続く幸せがより愛しく感じられる。全百合ファンにプレイしてほしい傑作だ。
本記事では『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』のあらすじやヒロインを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
あらすじ
私立桔梗女学園ではスマートフォンの持ち込みが厳しく制限され、生徒たちは手紙でのやり取りでメッセージを交換する。
湊汐里 Side
ある日、1年生の湊汐里(みなとしおり)は面識のない2年生・倉橋海琴から突然告白された。
怒ったような海琴の態度に戸惑いつつも、もう自分にこんな機会は訪れないのでは?という思いから、告白を受け入れる。
倉橋海琴 Side
2年生の倉橋海琴(くらはし みこと)は、一通の脅迫状を受け取る。
手紙には《妹に危害を加えられたくなければ、湊汐里に告白しろ》と書かれていた。
当初は相手にしていなかった海琴だが、妹の結海(ゆみ)が怪我をしたことが分かり、仕方なく手紙の指示に従った。
こんなことをして利益があるのは汐里だけではないか……。脅迫状の犯人は汐里かもと疑い、嫌悪を感じながら、2人の交際は始まる。
主な登場人物
湊 汐里 (みなとしおり)
高等部1年生。
おっとりした性格で、編み物、刺繍が趣味。
倉橋 海琴 (くらはし みこと)
高等部2年生。
美人で人気があり、よくラブレターをもらうが、見た目だけで判断されることを嫌悪している。
普段はクールでも、妹・結海には甘える一面も。
倉橋 結海 (くらはし ゆみ)
高等部1年生。
病弱で、登校日の大半を保健室で過ごしている。
性格は実年齢よりも大人びている。
立花 碧 (たちばな あおい)
生徒会所属の高等部3年生。
軽薄な様子で数々の女の子に手を出しているという噂。
汐里にも興味を持っている。
レビュー
交互の視点で見せる優れたシナリオ
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』は汐里ルートと海琴ルートを交互に進み、それぞれの視点からストーリーを見せることでお互いの気持ちを明らかにしている。
海琴が怒っていたのにはこんな理由があったのか、汐里のぎこちない返事にはこんなメッセージが込められていたのかなど、一方からの視点だけではわからなかったそれぞれの思いや、感情の揺れが理解できる。
作中どのシーンにも2人の心に刺さる小さなトゲがあり、会話を通じてじわじわと心に傷を作っていく。
少しのトゲを抜くようなシーンもあれば、今まで蓄積されたトゲを一気に抜くようなシーンもあり、物語はドラマチックに展開する。
最終的には少しの謎を残し、ミステリアスに終わる。
ああでもない、こうでもないと、謎や続きのストーリーを想像したり考察するのも楽しい! 続編が楽しみ!
繊細かつ重層的な感情表現
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』における感情表現は複雑で重層的だ。人間らしい奥行きをもって喜怒哀楽が複雑にミックスされている。
たとえば、冒頭で2人が一緒に下校する場面。
汐里はあまり容姿を褒められた経験がない。海琴から「かわいい」と言われたとき、その言葉をストレートに受け取り、うれしさと恥ずかしさで頬を染める。
その後すぐに海琴から「嫌味なんだけど」と言われ、ショックを受けるやら、情けないやらでさらに感情をかき乱される。
一方で海琴は脅迫状の犯人は汐里だと決めつけて憎悪しているのに、つたないながらも頑張って言葉を紡ごうとする汐里の姿に好感を持ち始めている。
言葉はキツいが、心根が優しいからこそ、相手を憎みきれないし、汐里の純粋な気持ちを受け取る感受性も持っている。
2人の仲は少しずつ誤解や疑念が解けると同時にゆっくりと深まっていく。急ぎすぎないテンポが良かった。
シナリオ、テキストだけではなく、声優の演技も質が高かった。
汐里は少し抜けたようなゆるふわ感がかわいいし、海琴は強がっているなかに繊細さを感じさせる。
ストーリー中盤では心が引き裂かれるような大きな出来事があり、筆者は彼女たちにガッツリ感情移入していたためダメージを受けたほどだ。
その分、後半で訪れた幸せな場面には思わずニヤニヤしてしまった。
百合作品にはおなじみの水族館デートもあるよ!
コロコロ変わるキャラクターの表情がかわいい
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』の原画担当はsheepD氏。
会話の中で表情がコロコロ変わるシーンがかわいい。特に汐里はいじられシーンと普段の表情に差があって、魅力的だ。
後半でデート中に汐里がムッとする表情があってね!それもかわいいんだよねー!
ワンピースの上にセーラーカラーのボレロを羽織った制服のデザインはちょっと変わっていて、かわいらしい。また私服デートではヘアアレンジが変わるところにこだわりを感じさせる。
1か所だけ、CGに気になったところがあった。
相合い傘を持つ手は、普通は逆じゃない?
普通は相手が濡れないように、相手のいる側に傘を差しかけるのが思いやりだろう。
よく見ると、海琴のカバンの位置も変! この持ち方であれば、汐里は逆側に寄り添う方が自然よね。元々反対側に立っていた汐里を、なにかの都合で逆側に動かしたんじゃないかな?
ネタバレ注意(+で表示)
元々静止画として描かれたイラストに動きを加えるため、後から位置を変更したのかもしれない。
というのも、この後、海琴が汐里をそっと抱き寄せる動作がある。
2人がぴったり寄り添っていたら、そのような動きは成立しないため、あえて距離を離したのかもしれない。
雰囲気にピタリとハマった音楽
良い百合ゲーには良い音楽が寄り添うべきだ(筆者の謎理論)。
本作の音楽も雰囲気を大いに盛り上げている。
紫咲ほたるが歌うOP曲「ツユシラズ」は名曲だ。
ピアノとボーカルの透明感、「言の葉に刻む裏表~」からはじまる歌詞も作中の雰囲気そのままで情景が浮かぶ、言葉のチョイスが素晴らしい。
Aメロに入るブレイクが少し長いのがドキッとさせる作りになっていて、考えられている。
BGMはピアノメインの落ち着いたものが中心。
作風とリンクするせつない曲「降り続く雨」は単体で聞いてもグサっとくるし、クライマックスで流れる「海に包まれた場所」は感動的だ。
サントラ即買いしたよ!
不足のないシステム
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』のシステムは必要なものがそろっており、物足りなさは感じなかった。
セーブスロットは1,200もあるため、頻繁にセーブするプレイヤーも安心だ。
クリアまでのプレイ時間は5時間・やりこみ要素はなし
筆者のプレイ時間は5時間。
シナリオは一本道で選択肢もないため、ゲームよりはデジタルノベルと言える。
CG回収で周回する必要もない。
CGは11枚+差分多めで、クリア後にEXTRAから見られるよー!
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』総合評価
総評:傑作
5/5
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』はせつない百合関係を描いた恋愛アドベンチャーだ。
脅迫状のからはじまった2人のギスギスした関係が徐々に変化する様子を丁寧に描いている。
2人の視点を交互に入れることで、お互いの気持ちが分かりやすいシナリオとなった。
テキストとグラフィック、ボイスによって完成されたキャラクターには人間らしい感情の揺れがあり、思いが痛いほどに伝わってくる。
本作は全百合ファンにプレイしてほしいタイトルだ。
- 交互の視点で見せる優れたシナリオ
- キャラクターにあった感情表現
- コロコロ変わるキャラクターの表情
- 雰囲気にハマっている音楽
- 特になし
『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』
- 対応機種:PC
- 発売日:2021年6月30日(Steam)、2021年9月18日(DLsite)
- 発売元:HUBLOTS、mirai works
- 開発元:Lily Spinel
- ジャンル:あなたを好きになっていく百合恋愛アドベンチャー
- 企画・シナリオ:御厨みくり
- 原画:sheepD
- 筆者プレイ時間:5時間
- レビュー時のプレイ機種:PC(Steam)
※2021年9月18日時点