『リップ・トリップ~編集長(ボス)はわたしの解熱剤~』はオメガバース×お仕事もの百合ビジュアルノベルだ。
シリーズ累計の販売本数が10万本を超えた百合ラブコメノベルゲーム『推しのラブより恋のラブ』シリーズのスタッフが再集結して制作した作品で、今回は社会人同士の恋愛を描いている。
憧れの会社に転職した凛乃は自らのバース性(特性)に悩まされながらも、上司・千寿の助けを借りて困難を乗り越えようする。その過程でお互いに惹かれ合うのは身体のせいだけではない。
BLなどで多く見られるオメガバースを百合に持ち込んだ意欲作だが、特殊設定だけに頼ることなく、お仕事ものとしても楽しめるように作られている。オメガバースをまったく知らなくても楽しめる作品だ。
オメガバース世界では、人は男女などの性別以外に「第2の性」を持つ。
- α(アルファ/支配階級)
- β(ベータ/中位層)
- Ω(オメガ/下位層)
下位層のΩは発情期になると支配階級のαを誘引してしまう。
本記事では『リップ・トリップ~編集長(ボス)はわたしの解熱剤~』のあらすじ、登場人物を紹介した後、アペンドパッチ適用版のゲーム内容をレビューしていく。
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あらすじ
妹熊凛乃(オメガ)はWebマガジン「Fuller」の編集部に転職した。
入社初日、外出していた編集長・清津千寿(アルファ)を迎えに行くと、タイミング悪くヒート(発情期)になってしまう。
「オメガの体質のせいで憧れの仕事を諦めたくない」
凛乃の想いを感じ取った千寿は「すこし、目をつむってて」と凛乃の身体に触れーー。
キャラクター紹介(声優)
妹熊 凛乃 (CV.稲荷 結)
26歳のΩ(オメガ)。
Fuller編集部の新入社員。
困難な状況でも諦めない努力家。
清津 千寿 (CV.逢真井もこ)
27歳のα(アルファ)。
Fullerの編集長。
仕事ぶりは優秀。温和な性格で面倒見も良く、社内外問わず信頼を集める。
レビュー
実力で自分の居場所を作っていく凛乃
凛乃のようなオメガは社会のなかで下位層に位置付けられている。社会で差別的に扱われていた時代から、オメガの権利が認められるように変化しているが、あくまで表面的なものでしかない。
凛乃の採用がオメガ枠であったように、一流企業と言えど、オメガを自然と見下すような態度を取る人々はいる。
冒頭の凛乃と人事社員のやり取りでは、「弊社はアルファの女性が多いので、態度に気をつけて」と言われたり、”よく使うだろうから”とコピー機やカフェスペースを丁寧に説明されるなど、オメガへの偏見が顔を覗かせる。
そんな扱いに凛乃は心のなかで「クソ人事!」と憤慨しながらも、怒りをモチベーションに変化させる。コピー取りやお茶汲み要員でないことを証明するために、同僚の仕事を先回りしてフォローしたり、企画を提案するなど、実力を証明して自分の居場所を作っていく。
お仕事ものとしても楽しめるね!
彼女にしたい度100%!やさしくてかっこいい千寿
2人が初めて出会うシーンで、千寿は凛乃に対して「私にあまり近づかないで」と言い放つ。このシーンだけを見ると千寿は冷たい人間に思える。
しかし、その言葉の裏側にあるものが見えてくると印象が大きく変わる。
千寿はヒート状態になってしまった凛乃に抑制剤が効かないと見るや、すぐさま人目のつかない場所に移動する。千寿は凛乃の仕事への想いを感じ取り、彼女が問題なく仕事が続けられるようにするために行動したのだ。
千寿は「私にあまり近づかないで」と言った後、凛乃とは一定の距離を保ちながら、彼女がピンチになると手を差し伸べたり、密かにフォローしていたりと、さりげないやさしさを見せる。毅然とした振る舞いを見せるシーンもあり、かっこよさもある。
物語の終盤では凛乃が千寿の今までの行動を振り返り、そのときの心情を想像するシーンがあり、凛乃の目線を通して、千寿の人の良さが改めて感じられる。
千寿さん、彼女としても上司としても完璧すぎて誰でも惚れてまうわ!
微細な描写が作品への没入感を高める
テキストを読み進めるなかで、時折現れる具体的なメイクの描写にドキッとした。
リップカラーについて、コーラルピンクやモーブピンクとテキストで描写される。先輩の眉がブラウンカラーのマスカラでカラーが変えられていることまで書かれており、微細な描写は主役の2人以外にも及んでいる。
千寿と至近距離で向き合うシーンで凛乃は「伏せられたまつ毛が震えるのがかわいい」と感じる。キスのシーンでは「リップの上に乗せていたグロスのラメが移って、千寿さんのくちびるの先がきらきらと光る」と書かれている。
メイクの色味に細かく言及することによって、プレイヤーの視線は想像のなかで目元や口元にクローズアップされ、没入感が増す。
ヒートになると、ひらがなの割合が上がって一気に色っぽくなるね……(照)
表情と汗、涙が印象に残るかわいいらしいビジュアル
本作のキャラクターデザインは人気イラストレーター・漫画家の千種みのり氏。
キャラクターの性格を反映するようなビジュアルで、2人ともかわいらしく描かれている。とくに魅力を感じたのが凛乃の髪色で、ミルクティーベージュにピンクのメッシュと明るめのインナーカラーが映える。服のスタイルと合わせておしゃれにまとまっているのが愛らしい。
千寿はジャケットにパンツで、凛乃と対比するようにシンプルなスタイルだ。時計やネックレス、ピアスなどのアクセサリーもシックなものが多い。全体的にクールな印象だ。
イベントスチルで印象的だったのが、表情と汗や涙の表現だ。
作中では凛乃がヒート(発情期)になり、ピンチに陥るシーンが何度かある。ヒートになった凛乃は不安や焦り、自己嫌悪に陥るし、千寿はとまどいや苦悩など、さまざまな感情を抱く。
凛乃の火照った頬や焦りからくる汗、今にも目から零れ落ちそうな涙、千寿が理性的に振る舞おうとしている表情など、それぞれの複雑な感情が集約されたスチルは艶っぽさもあり、心を奪われた。
クリア後にキービジュアルの意味が分かるの、胸熱!
オメガバースの知識ゼロでも楽しめる
筆者はオメガバースについてよく知らず、専門用語はわからないし、難しそうと身構えていた。実際にプレイしてみるとオメガバースに触れたことがない人でも楽しめるように作られていて、安心した。
アルファ・ベータ・オメガやヒート、番などオメガバース固有の用語は含まれるが、作中のテキストに盛り込まれる形で自然に説明される。用語を覚える必要はないし、読み進めるうちに自然と理解できるようになっている。
さらにゲーム内にTipsの形で用語集が収録されており、気になった用語を調べることも可能だ。用語を押すと解説といっしょに凛乃と千寿が用語にまつわるこぼれ話を披露してくれる。
オメガバースの定番をふまえた入門編のストーリーね。
オメガバースだけど、両性具有の表現はないよ!
プレイ時間は1時間50分
筆者のプレイ時間は1時間50分だった。※アペンド込み、ボイスをすべて聞いての時間
何度か読み直したり、Tipsやスチルを見ていた時間も含まれるため、本編自体のプレイ時間はもう少し短い。
気軽に遊べるボリュームだが、ストーリーに物足りなさは感じなかった。欲を言えば、この先の2人がどんな関係を築いていくのかを見たいので、続編やファンディスクが発売されるとうれしい。
総合評価
『リップ・トリップ~編集長(ボス)はわたしの解熱剤~』は社会人同士の恋愛を描いた百合ビジュアルノベルだ。
下位層に位置するオメガである凛乃は偏見に晒されながらも実力を証明し、居場所を作っていく。その影でしっかりと凛乃を支える千寿のやさしさに救われる。
時折差し込まれる微細なメイクのテキスト描写や艶っぽいイラストによって物語の解像度が上がり、作品の世界にグッと引きずり込まれる。
オメガバースを知らなくても楽しめるように配慮されており、お仕事ものとしてもプレイできる作品だ。
上司×部下のガールズラブが好きなら、プレイしてほしいタイトルだ。
- 魅力的なキャラクター
- ドキッとする微細な描写
- 感情が伝わってくるスチル
- 特になし
社会人
オメガバース
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『リップ・トリップ~編集長(ボス)はわたしの解熱剤~』
- 対応機種:PC
- 発売日:2024年2月22日(アニメイト/DLsite/FANZA GAMES)、2024年4月15日(Steam)
- 発売元:HUBLOTS、LoveStoryProject(Steam)
- 開発元:SukeraSomero
- ジャンル:百合ビジュアルノベル
- シナリオ:オグリアヤ
- 原画・キャラクターデザイン:千種みのり
- 筆者プレイ時間:1時間50分(アペンド適用)
- レビュー時のプレイ機種:PC
※2024年4月15日時点