ある日、突然言葉が通じない世界に行ってしまったらどうするだろう?知り合いもおらず、たったひとり。そのなかで馴染みのある言語が聞こえたら……きっと安心するだろう。
『ことのはアムリラート』は他言語が飛び交う異世界を舞台にした百合ビジュアルノベルだ。
主人公・高遠凛は突然、異世界に迷い込む。言語が分からず、途方に暮れていたところを少女・ルカに助けられ、共同生活の中でお互いの言語を理解し、より深い関係を築いていく。
エスペラント語を基にした言語・ユリアーモに目が行きがちだが、異世界で混乱しながらもポジティブに生きる凛の心理が丁寧に描写されている。2人が心を通わせていくストーリー作りに優れた、純百合アドベンチャーだった。
本記事では『ことのはアムリラート』のあらすじやヒロインを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
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あらすじ
凛は友達から評判のたい焼き屋さんの情報を聞き、商店街に向かった。たい焼きに夢中になって、転びかけ、顔を上げるとさっきまで青く輝いていた空がピンクに染まっていた。


違和感を覚え、周囲を見渡すと見知らぬ言語で書かれた看板、話す言葉も未知のものだった。途方に暮れて座り込む凛にひとりの少女が話しかけてくる。


凛は少女との身振り手振りのコミュニケーションのなかで、わずかな日本語が伝わることに気がつく。
片言の日本語が話せる少女・ルカのおかげで少し元気を取り戻し、交番に連れて行ってほしいと伝えると連れて行かれたのはルカの家だった。
キャラクター紹介
高遠 凛 (CV.長妻 樹里)


女子高生。ポジティブ思考。
自分が男っぽいところを気にしている。
ルカ(CV.内田 秀)


異世界の少女。
凛の世話をしつつ、異世界の言語・ユリアーモを教える。
レイ (CV.ブリドカット セーラ 恵美)


異世界にやってきたヴィジタント(訪問者)を管理する女性。
普段は図書館に勤める司書。
2人を暖かく見守っている。
レビュー
異世界での孤独や不安、そして希望を抱く凛の姿に心動かされる
『ことのはアムリラート』の舞台は異世界。町の景観や食べ物は日本によく似ているが、大きく異なるのは言語だ。異世界では日本語が通じない。共通言語はユリアーモだ。
ことのは=言葉
アムリラート=恋愛関係




主人公・凛は未知の言語が飛び交うなかでの生活を余儀なくされる。
ルカはかんたんな日本語の単語くらいは通じて助けてくれるが、スムーズに会話するのは難しい。場合によっては意図がうまく伝わらないこともある。
突然異世界に放り出され、家族と離れ離れになったこと。日本語が通じないこと。凛には不安と孤独が重くのしかかる。
いつの日か元の世界に戻れるかもしれないという期待ははかなく消え、いつしか、この世界で生きていかなければならないという諦めに至る。
ルカの前では元気にふるまう一方、ひとりになったときに悲しみの波が押し寄せる。


凛の素直な感情が溢れ出すシーンがある。
ゲーム全体の1/5程度のシーンであるため、ネタバレが気になる方は飛ばしてほしい。
凛は異世界からきた者として、管理局で訪問者登録を行うことになり、レイから資料を渡される。
封筒を開けると日本語で書かれた文字を読み始めた。「私には,この文章が分かります」からはじまる事務的な文章を読み上げながら、凛は涙を流す。
これまで気を張って生活してきたのに、日本語を読んだことによってぷつりと緊張の糸が切れてしまった。
感情を揺さぶるために書かれた詩や文学ではなく、事務的な文書によってどうしようもなく心を動かされてしまったストーリーが切ない。
筆者にとって、鮮やかに印象に残るシーンだった。


凛の孤独についても触れておきたい。
異世界で知る人もなく、買い物に行っては懸命に覚えたユリアーモで店員さんと会話を交わす。言葉が通じないのは孤独だ。
筆者は以前、数日間にわたり外国人と過ごす機会があった。共通言語である英語が不得手のため、なんとか聞き取り、理解しようと努めたが円滑なコミュニケーションとはいかなかった。
そんなとき、慣れない会話に疲弊している私に台湾から来た人がかんたんな日本語で話しかけてくれたのだ。
そのときのホッとした気持ちは今でも忘れられない。
たかだが数日、言葉が通じない環境に置かれただけでも気が滅入るのに、それが延々に続くのは辛いだろう。
だが、凛はあくまでポジティブだ。なんとか気持ちを切り替え、物事に前向きに取り組む。ルカと話せるようにユリアーモを習得しようと勉強するし、八百屋に行っては片言のユリアーモでコミュニケーションを取ろうとする。


凛の前向きなパワーによってストーリーはグイグイ引っ張られ、プレイヤーは、つい、彼女を応援したくなる。
不安や孤独といった影の部分も描きつつ、それを跳ね飛ばす凛の強さは本作の大きな魅力だ。
ガチで学ぶエスペラント語
異世界で使われる言語・ユリアーモはエスペラント語を基にしている。
1887年、ザメンホフが考案した国際共通語。他の言語と比べても習得しやすいと言われている。



「はい」がイェスと聞いて英語と同じかな?と思ったら、「いいえ」はネだったよ!
作中の会話にはユリアーモが多く含まれるため、一部分だけを切り取って見ると意味不明に見える。


作中ではゲームを遊びながらユリアーモを理解できるようになるための工夫がなされている。
新しい単語が出てきたときは画面右上に単語帳が現れ、つづりや意味を教えてくれたり、クイズ形式で学習状況を確認される。




文字を覚えたり、数字やよく使う慣用句からはじまり、文中の虫食いを埋める方式まで様々なクイズが収録されている。
筆者は出てきた単語をメモしながら覚えてクイズに挑んだが、カタカナと意味だけを書いたため、つづりが分からず苦戦した問題もあった。
クイズは設定によりスキップ可能だ。語学はちょっと苦手……というプレイヤーへの配慮もある。
序盤はルカとのコミュニケーションを通してユリアーモを覚えていくのが楽しいが、中盤の文法学習に入ったあたりから授業のようなテイストになり、ついていけなくなってきた。
語学学習に慣れた人には些細なことかもしれないが、筆者はどうしても学習に集中して気が散ってしまい、ストーリーに入り込めない部分があった。



レイもフォローしてくれるのはありがたいけど、先生のような振る舞いによって授業っぽさが増しちゃうのかも。
筆者は途中からメモを取るのはやめ、流れに任せてプレイした。それでも、表示されるユリアーモが次第に分かるようになっていたのには驚いた。よく使われる挨拶や定番の文は何度も聞くうちに覚えてしまう。
本作だけでエスペラント語を習得するのは難しいが、その足がかりにはなり得ると感じた。
ユリアーモ(エスペラント語)は大きな特徴ではあるが、言語習得は強制ではない。学習が苦手な人はすっぱり切り捨て、ストーリーだけを追うことも可能で、プレイヤーは楽しみ方を選択できる。
しかし、プレイヤーが凛といっしょになってユリアーモを学習することで、苦労を分かち合った凛への共感度が高まるだろう。
表情豊かなルカがとにかくかわいい
甲斐甲斐しく凛の面倒を見るルカもまた、魅力的だ。
凛のために慣れない日本語で”ことのは”(言葉)を紡いだり、凛の姿が見えなくなると懸命に探し回り、見つけたら涙ながらにハグしたり、凛を大切に思っていることが伝わってくる。


成瀬ちさと氏のイラストはやさしくキュートで、ちょっとイジワルな表情や照れている表情が特にかわいい。




異世界で孤立しそうな凛を支えて、コミュニケーションを取ろうとしてくれるルカは、見た目がかわいいだけでなく人柄や知性も兼ね備えたパーフェクトなヒロインだ。
システムは及第点だが、バックログの使いにくさも
必要なシステム設定はおおよそ備わっており、特に不満はない。
強いて言えば、マウスホイールでバックログを開くのではなく、ウィンドウで1つ前の会話に戻ってしまうことが気になった。




プレイ時間は7.5時間
筆者のプレイ時間は7.5時間。
選択肢によって3つのエンディングに分岐する。
筆者はすべてのエンディングを見た後、2周目をプレイした。
本作は一度クリアすると設定で言葉の日本語訳が解放される。
今までユリアーモのみが表示されていたテキストに日本語字幕がついた状態で再度プレイすると、初回プレイではイマイチ理解できていなかった序盤のユリアーモでの会話が明らかになる。


世界観を維持しながら、プレイヤーの再プレイへの意欲を掻き立てる優れた作りだと感じた。
実際に2周目をプレイすると初回プレイ時は文脈からこんな感じかな?と想像していたのと違うシーンもあり、正しい翻訳を知ることでより楽しめた。
クリア後にはエクストラモードが解放され、CGとBGMが閲覧・視聴できるようになる。
総合評価



総評:非常に良い
4/5
『ことのはアムリラート』は異世界を舞台にした百合ビジュアルノベルだ。
主人公・凛が知り合いもいない、言葉も通じない世界で不安や孤独を抱えながら、ポジティブ思考で突き進む姿を感情豊かに描いたシナリオが良い。
普段の会話やクイズを通してユリアーモ(エスペラント語)に馴染めるよう、工夫され、終盤にはいくつかの言葉やかんたんな文の日本語訳にあたりがつけられるようになる。言語に慣れるためのファーストステップとしても有用だ。
エスペラント語に興味がなくても大丈夫。お互いを思って言語の壁を乗り越えようとする2人のピュアな恋愛ストーリーを、多くの百合ゲーファンにプレイしてほしい。
- 丁寧に描写された凛の感情
- 気軽に触れるエスペラント語
- かわいさ満点のルカ
- 中盤で感じる”勉強している感”
『ことのはアムリラート』
- 対応機種:PC、iOS、Android
- 発売日:2017年8月25日(PC)、2018年2月16日(iOS)、2017年12月22日(Android)
- 発売元:SukeraSparo、MangaGamer(Steam)、mirai works(Steam)
- 開発元:SukeraSparo
- ジャンル:純百合アドベンチャー
- シナリオ:J-MENT
- 原画・キャラクターデザイン:成瀬ちさと
- 筆者プレイ時間:7.5時間(全エンディング/2周プレイ)
- レビュー時のプレイ機種:PC(Steam) / ver.2.2
※2022年5月24日時点
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