『神田アリスも推理スル。』はテキストベースの百合ミステリアドベンチャーゲームだ。
志水はつみ氏の書く、少し硬質な文体と春夏冬ゆう氏の可憐なキャラクターがマッチし、凛とした雰囲気を感じさせる。
本作はライトな百合描写かつプレイ時間も短く、はじめての百合ゲーとしておすすめだ。
本記事では『神田アリスも推理スル。』のあらすじやヒロインを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
関連記事 「初心者におすすめ!Switchで遊べる百合ゲーム5選」を読む
あらすじ
神田アリスは御幸森女学院高等学校の1年生。
幼馴染の穂高明が巻き込まれた事件に考えを巡らせていた。
2人が所属する弓道部の優勝カップが壊され、明が犯人だと噂になっている。
当の明は否定しているのに……。
明はついに退部を決意。
アリスは明の潔白を証明するため、クラスメイトから聞いた「学校にいる占い師」を訪ねる。
主要キャラクター紹介
神田 アリス
1年生。イギリス人と日本人のハーフ。
明がいるからと弓道部に入部する。
明るく、芯が強い性格
佐和良義 宝珠 (さわらぎ ほうじゅ)
2年生。茶道部部長。
悩みを解決してくれると評判の「占い師」。
少し近寄りがたい雰囲気を感じさせる。
穂高 明 (ほだか あきら)
1年生。アリスとは幼馴染。
スポーツ万能&快活な性格で生徒たちに人気。
豪快なようで実は繊細な一面もあり。
レビュー
立体的なキャラクター造形
愛されキャラの主人公・アリス
『神田アリスも推理スル。』の主人公・アリスはちっちゃくてかわいらしい容姿で一見ふわふわした女の子だと思ってしまう。
その内面はしっかりと芯を持ち、周囲への思いやりを欠かさない。とても良い子だ。
筆者はアリスの真っ直ぐさに好感を持ち、アリスの恋を応援したくなった。
これまでもアリスの人生は決して順風満帆ではない。
苦難を乗り越えたからこそ、人を思いやれるやさしさを持った。アリスはそんな人だ。
人物造形が立体的に描かれているからこそ、ストーリーにハマり、おもしろく感じた。
ミステリアスな麗人・宝珠
宝珠はクラスで浮いている。
初対面のアリスたちに「貴方にとって奪われたくないものは何か」とズバリ問うてみたり、事件を解決するときの有能さ、凛々しさ。
そこからだんだん打ち解けていくにつれて、見せていく柔らかな表情。
宝珠のなかで静かに燃える恋の炎が徐々に大きくなっていく様子に引き込まれてしまい、ハラハラと恋の行方を見守った。
いつもは凛とした佇まいなのに、ちょっと心細くなったりして、弱気になるギャップがかわいいのよねー!
謎解きはほどよい難易度
『神田アリスも推理スル。』は犯罪ではなく、日常生活の中にあるふとした謎《日常の謎》を扱うミステリだ。
謎解きは全部で3つある。
最初の謎は少し分かりにくいが、第2、第3の謎はかんたんに解ける。
本作に高度な謎解きを求めるプレイヤーは多くないだろう。適正な難易度と感じた。
もし分からなければ、総当たりでクリアすることも可能だ。
志水はつみ氏がつむぐ硬質な文体の魅力
『神田アリスも推理スル。』のライター・志水氏の代表作『FLOWERS』を彷彿とさせる硬質な文体、少女だけの清純な雰囲気、美しい世界観はこの作品にも踏襲されている。
「呵呵(かか)と笑いーー」「佳い(よい)」など《らしい》ワードの選択が小気味よい。
「じょじょに」がひらがなだったのはどういう意図があるのか気になる
志水氏らしさは作品引用にも表れている。
ビッグ・ブラザーが降臨したかのように、彼女の存在は衆目を惹きつけていた。
『神田アリスも推理スル。』より
食堂に現れた宝珠を見て驚く周囲の生徒の様子から、アリスは監視社会を描いたジョージ・オーウェルの小説『1984年』を想起した。
このたとえは、閉鎖的な女学院の空気をオーウェルの小説になぞらえて文学的に表現したものだ。
そして食堂には現れたことのない宝珠を、実在するのかも分からない偶像のビッグ・ブラザーと重ねている。
こういうの好きー!
登場人物の知的で凛とした魅力は、志水氏のつむぎ出すセリフの文体に負うところが大きい。
キービジュアルとかわいいサブキャラ
『神田アリスも推理スル。』のメインキャラクターデザインが春夏冬ゆう氏、サブキャラクターデザインはことるり氏が起用された。
まずキービジュアルが素敵だ。
よく見ると二人は小指だけ繋いでいる。
まあ、なんて尊いの!
このキービジュアルだけでアリスと宝珠の関係性を感じられ、本作がイチャラブ作品ではなく、ピュアな作品であると理解できるだろう。
そして忘れてはならないのが、サブキャラクターたち。
私のおすすめサブキャラを紹介しちゃう!
アリスのクラスメイト・春日恵理は誰とでも友達になれそうな世話焼きでかわいい子だ。
恵理は周囲から距離感の取り方が心地よいと思われるタイプで、相手が求める接し方をわきまえているところが、実は大人っぽい。
一緒に過ごしていると楽しいし、気楽だろうなと思う。
もじゃもじゃの髪の毛もかわいいよ!
背景にもこだわりを感じた。特に木の表現。
廊下をから見える木製の教室のドアは少し古びたように描かれていて、細かいところにも気づかいがあって良い。
音楽はピアノがメイン
BGMはピアノメインの楽曲が多い。
どれも洗練されていて、本作の雰囲気とあっている。
しっとりとした「悲哀」はタイトル通りの物悲しい曲で、特に印象に残った。
「日常」「推理」は少し『FLOWERS』っぽいかも?
茶道部、弓道部と和にまつわる部の描写が多いため、和のテイストを感じさせる曲があってもよかった。
快適なシステム
『神田アリスも推理スル。』のシステム面は快適。クイックセーブ/ロード、スキップなど必要な機能はひと通りそろっていた。
スキップはかなり高速。選択肢までのジャンプ機能もあり、選び間違えたときもすぐ戻ってやり直しができる。
筆者はフォント設定が好印象で、初期の明朝体は本作の雰囲気にはあっているが、読み進めにくかったため、ゴシック体に変更してプレイした。
細かい気づかい、ありがたいね!
プレイ時間は5時間
総プレイ時間は5時間。
短編と公表されているとおり、プレイ時間は短いが、ロープライスの作品として価格に見合っている。
定価1,500円(記事執筆時:2021/5/6)
本作は優れたタイトルながら5時間で終わってしまうのがおしい。
サブキャラクターのなかには出番が少ない者もおり、もったいないと感じた。
フルプライス(もしくは連作形式)でボリュームを増やし、彼女たちの日常生活や過去の出来事をもっとじっくり、志水氏の筆致で読みたい。
さらに深く『神田アリスも推理スル。』の世界に浸りたいのだ。
ちょっと高くても全然買うから、お願い!!
総合評価
総評:非常に良い
4/5
『神田アリスも推理スル。』はテキストベースの百合ミステリアドベンチャーゲームだ。
春夏冬ゆう氏、ことるり氏のキャラクターデザインはかわいさを志水はつみ氏の硬質な文体は美しさを生み、かわいさと美しさのバランスが絶妙だ。
少ないテキスト量でもキャラクターの内面の描写をきちんと入れ込み、アリスや宝珠を魅力的なキャラクターに感じさせる。
ライトな百合描写かつ優れたシナリオが短時間でプレイできる本作は、百合ゲーファンはもちろん、これから百合ゲーをプレイしたい人にはじめの1本としておすすめできるタイトルだ。
- 志水はつみ氏の硬質な文体
- 魅力的なキャラクター描写
- ほどよい謎解きの難易度
- 出番の少ないサブキャラあり
『神田アリスも推理スル。』
- 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation 4
- 発売日:2021年4月28日(Switch)、2022年7月21日(PS4)
- 発売元:RED FLAG SHIP
- 開発元:El Dia
- ジャンル:百合系ショート・ミステリーアドベンチャー
- シナリオ:志水はつみ
- 原画・メインキャラクターデザイン:春夏冬ゆう
- 筆者プレイ時間:5時間
- レビュー時のプレイ機種:Nintendo Switch
※2022年7月21日時点
こちらの記事もおすすめ
『神田アリスも推理スル。』の世界観が好きな方はシナリオライターが同じ『FLOWERS 四季』もおすすめだ。
Switchで遊べる百合ゲーを探している方は『初心者におすすめ!Switchで遊べる百合ゲーム』の記事もチェックしてほしい。