『岩倉アリア』はサスペンスを主軸としたノベル形式のアドベンチャーゲームだ。
主人公の壱子は旧華族・岩倉家の使用人として令嬢・アリアと出会う。ふたりは絵を通じて関係を深めていく。
物語が進むにつれて、岩倉家に隠された忌まわしい秘密が次々と明かされる。スリリングなシーンが随所に散りばめられており、ミステリーとしても楽しめる。
友情百合ではなく、主従関係における恋愛百合・ガールズラブを明確に描いている。恋愛要素を求めるプレイヤーも満足できる作品だ。
本記事では『岩倉アリア』のあらすじや登場人物を紹介し、ゲーム内容をくわしくレビューしていく。
本記事はMAGES.から商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
1966年(昭和41年)、高度経済成長期の日本。
北川壱子は養護施設のバザーで旧華族・岩倉家の主人・岩倉周と出会い、屋敷で女中として働きはじめる。
そこで壱子が出会ったのは、この世ならぬ美しさを持つ令嬢・アリアだった。
絵を通じてアリアとの距離を縮める一方で、壱子は洋館に違和感を覚え、秘密を探り始めるのだが――。
キャラクター
北川 壱子 (CV.鈴代紗弓)
16歳。
養護施設で育ち、中学卒業後は建築会社に就職したが、1年あまりで退職。
その後、岩倉家の女中として働くことになる。
大人として振る舞おうとするが、幼さを隠しきれない。
絵を描くのが趣味で、岩倉家では絵画の腕を磨く機会が与えられる。
岩倉 アリア (CV.中村千絵)
神々しいほどの美貌で周囲を圧倒する少女。
他人を寄せつけない雰囲気を漂わせるが、客人には愛想良く接する。
身体が弱く、疲れから寝込むこともある。
岩倉 周 (CV.森川智之)
アリアの父。
旧華族出身の穏やかな紳士で、貿易関係の会社を経営している。
壱子の境遇を心配して、岩倉家に女中として迎え入れた。
娘・アリアを溺愛している。
宮内 スイ (CV.本多真梨子)
岩倉家専属の料理人。
実家の洋食屋で働きながら、岩倉家でアリアたちの食事を作っている。
さっぱりとした性格で、壱子とすぐに打ち解ける。
屋敷の謎に迫るサスペンススリラー
本作の主軸となるのはサスペンスだ。
壱子は職場に馴染めず退職したばかり。出戻った養護施設にも居場所がなく、肩身の狭い思いをしていた。そんななかで訪れたチャンスが岩倉邸での女中の仕事だった。
美しい庭園のある洋館に親切な主人、ゆとりのある仕事、高収入。趣味の絵を描く時間もある。理想の職場だった。
しかし、甘い話には裏があるものだ。
初日の仕事を終え、壱子が眠りにつくころ。主人である周とその娘・アリアの不穏な会話が差し込まれる。それから岩倉邸の奇っ怪で恐ろしい秘密が徐々に明らかになっていく。
壱子は掃除のために屋敷のさまざまな部屋に入ると、ちょっとした違和感から次第に疑念を抱くようになる。
作中では目を覆いたくなるようなショッキングなシーンもあるが、スリリングな展開が次々と訪れ、この先どうなるのか知りたい気持ちに突き動かされ、一気にプレイしてしまった。本作は上質なサスペンススリラーであった。
バイオレンスな描写が結構あるので、苦手な人は気をつけてね!
神秘的な美女・アリアとの濃厚ラブロマンス
当初、アリアは壱子に対して素っ気ない態度を取っていた。以前から父に使用人は不要だと伝えており、壱子を振り回して辞めさせたいと思っていたのだ。
しかし、壱子の描いた絵を見ると、アリアの評価は一変する。
壱子が何気なく選んだ絵のモチーフが、アリアの関心を惹き、それをきっかけにしてふたりの距離が近づく。
あるときは拗ねたり、またあるときはふざけたりと、壱子の前では少女らしい姿を見せる一方、ときには壱子の主人としてきっぱりと意志を示したり、怒る壱子をなだめるなど大人っぽい部分もある。
一方の壱子は初対面からアリアに心を奪われていた。離れがたくてアリアのスカートの裾をつかんでしまう子どもっぽい甘え方をしたり、嫉妬に駆られて感情が爆発することもある。アリアへの想いが高まるほど、壱子の感情は抑えが効かなくなるのだ。
ふたりの関係は恋愛として描かれており、友情的な百合ではなく、ガールズラブであることを強調しておく。
壱子の友人となるスイにも触れておきたい。
岩倉家の料理人であるスイは明るい性格で、すぐに壱子と友達になる。全編に緊張感が漂う本作において、スイとの他愛ない会話はリラックスできる貴重なシーンだ。
食いしん坊の壱子のためにお弁当を作ってくれたり、一緒にスイカを食べたりと、使用人同士の対等な関係で友達として気兼ねなく触れ合うシーンにはほっこりする。
圧巻のイラストとドラマチックな音楽
ビジュアルは圧巻だ。
アリアの大きな目に見つめられると、画面越しにもかかわらずドキッとするし、スイの天真爛漫で表情が豊かなところも愛らしい。周のおだやかな表情のなかにもなにか不気味さを感じさせる。
それぞれが持つ個性が表現されており、肌の質感や陰影も生々しい。立ち絵も良いし、またイラストCGはそれ自体が完成された絵画のように美しい。
要所で挿入されるカットインは漫画のコマ割りのように文字送りするごとに次のコマが表示される。同じ画面を見続けることが多いノベルゲームにおいて、良いアクセントとなっている。
カットインのイラストは主にモノクロで描かれているが、シーンによって赤が差し込まれ、鮮烈な印象を受けた。
BGMも多彩だ。愁いを帯びたピアノの切ない楽曲から、ここぞというシーンで流れる猛々しくスリリングな楽曲まで、バリエーション豊かにドラマを盛り上げる。
声優の演技に引き込まれる
フルボイスで展開する本作では、声優たちの熱演も見どころ(聞きどころ)だ。
壱子役の鈴代紗弓さんは揺れ動く感情をそのままに表現している。エピローグでは大人になった壱子が登場する。選んだルートによって結末が異なり、それに合わせた声色を使った演技には驚かされた。
アリア役の中村千絵さんはおだやかなトーンが多いが、平坦に聞こえるなかにも感情が込められていた。壱子の髪をとかしているときの会話は喜びから跳ねるようなテンポが感じられたし、「ふふ」と聞こえれば微笑むアリアが目に浮かぶ。拗ねたときのトーンが愛らしかった。
スイ役の本多真梨子さんは壱子との会話のテンションの高さからふたりが気が置けない関係なのが伝わってくる。
スイに「今日も1日頑張ろ!」と言われるだけでずっと頑張れそうな気がする!
そして、周役の森川智之さんの演技にも奥行きがあり、腹に一物ありそうな雰囲気を感じさせる。物語が進むにつれて、底知れぬ怖さを抱かせる怪演だった。
プレイ時間は14時間
本作は特定の選択肢によって分岐するマルチエンディング形式だ。
エンディング数は9つで、サイドストーリーを含めると10となる。エクストラメニューの「クリアリスト」を確認すれば、どのエンディングを見たのかが分かるのが便利だ。
エクストラメニューには「クリアリスト」のほか、イベントCGが閲覧できる「アルバム」、BGMが聞ける「ミュージック」、物語を補完する「サイドストーリー」がある。
サイドストーリーは数分で読み終わるものが6本収録されており、複数のキャラクターのバックストーリーが描かれている。作品の世界観を理解するためにはぜひ読んでおきたい。
筆者のプレイ時間は14時間だった。※ボイスをすべて聞き、エンディング、サイドストーリーを見終わるまでの時間
濃厚なストーリーに浸るには十分なボリュームがあり、非常に満足できた。
総合評価
『岩倉アリア』は旧華族の秘密に迫るサスペンススリラーアドベンチャーゲームだ。
屋敷の使用人として働き始めた壱子が、好奇心から岩倉家の秘密を解き明かしていく。謎が謎を呼ぶストーリーに引き込まれ、スリリングな展開とあいまって、プレイしはじめると止められないほどのおもしろさがある。
魅力的なキャラクターばかりだが、なかでもアリアの存在感は圧倒的だ。彼女の大きな目に見つめられるとドキッとするし、大人びた雰囲気ながらも、拗ねたり壱子にいじわるしたりするギャップが愛らしい。
絵画のように美しいビジュアルや、スリリングな音楽が作品を彩り、声優の熱演が物語にさらなる説得力を与えている。ボリュームも十分で、濃厚な色香を存分に味わえる。
女性同士の恋愛もしっかりと描かれており、恋愛とサスペンスの両方を高いクオリティで楽しめる傑作だ。
- 謎が謎を呼ぶスリリングな展開
- 圧倒的な存在感を放つアリア
- 絵画のように美しいビジュアル
- 声優の熱演
- 特になし
『岩倉アリア』
- 対応機種:Nintendo Switch
- 発売日:2024年6月27日
- 発売元・開発元:MAGES.
- ジャンル:リアルファンタジー・サスペンスADV
- 企画シナリオ:午後ねむる
- コンセプトアート:100年
- グラフィック:中田ふみ
- 筆者プレイ時間:14時間(エンディングコンプリートまで)
- レビュー時のプレイ機種:Nintendo Switch
※2024年7月1日時点