『いつかのメモラージョ』は他言語が飛び交う異世界を舞台にした百合ビジュアルノベルだ。
百合ゲームブランド・SukeraSparoが2017年にリリースした『ことのはアムリラート』の続編となる。エスペラント語をベースにした言語・ユリアーモが飛び交う異世界に迷い込んでしまった凛と彼女を助けるルカが深い関係を築いていく様子を描いた作品だ。
前作の物語を引き継ぐ形で本作はスタートする。お互いの真意を測りかねてすれ違っていく様子を軸に2人の感情を丁寧に描写し、前作では描かれなかったルカの過去や親友・カナーコが仲違いした真相などが明かされ、作品自体の厚みも増している。
本記事では『いつかのメモラージョ』のあらすじや登場人物を紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
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あらすじ
凛が元の世界に戻る機会を放棄してから少し経ったある日。図書館からの帰り道でルカから「私に教えられないことはありますか?」と聞かれ、凛は戸惑いを隠せなかった。
モヤモヤを抱えたまま過ごすうちにルカと親友・カナーコの関係が気になりはじめ、2人の気持ちはすれ違っていく。
キャラクター(声優)
高遠 凛 (CV.長妻 樹里)
日本から異世界に飛ばされてしまった女子高生。
持ち前のポジティブ思考で困難を乗り切る。
ルカ(CV.内田 秀)
異世界で暮らす少女。保護者として凛と同居している。
レイ (CV.ブリドカット セーラ 恵美)
異世界にやってきたヴィジタント(訪問者)の管理局に務める女性。司書も兼任している。
以前はルカの保護者として同居していた。
カナーコ (CV.山名 枝里子)
ルカの同級生。言動はヤンキーっぽい。
ルカとは一時期仲違いしていたが、凛のおかげで再び親友関係に。
レビュー
すれ違う2人……せつなさに心が揺れる
『いつかのメモラージョ』で描かれるのは前作『ことのはアムリラート』の続きの物語だ。
凛はこの世界でルカと暮らすことを選んだ。ルカとの会話のなかでカナーコの名前が頻繁に出てくるのが気になっていたところに、不安を増長させる出来事が重なってもやもやが募る。対するルカも凛に言えないことがあり、2人はすれ違っていく。
このすれ違いが本作のキモだ。
凛にとってルカは大切な存在であり、限りなく恋人に近い存在だ。親友のこととはいえ、恋人が他人と仲良くしている話を聞かされるのは楽しいものではないだろう。しかし、凛の心にあるのは単なる嫉妬心だけではない。
凛がこの世界に残った理由はルカがいるからだ。元の世界には親友の柚実や友だち、家族もいる。言語(ユリアーモ)もまだ分からないことが多い。凛はこの世界で未だに孤立と隣合わせなのだ。
それなのにルカが自分を必要としていなかったら……と不安が不安を呼び、嫉妬や依存心など負の感情が凛を支配していく。いくら根がポジティブとはいえ、凛はまだ17歳。少女がひとりで抱えるにはあまりにも重すぎる問題を抱えている。
言語の問題もすれ違いに拍車をかける。凛のユリアーモはまだまだ発展途上で、ルカも難しい日本語は分からない。お互いを思いやってコミュニケーションを取っているとはいえ、細かな意図を汲むのは難しい。
焦った凛がルカを詰問するシーンでは、日本語ではなくユリアーモで返答されることに怒りを募らせている。そしてカナーコと同じと言われたときには不安がピークを迎えて、ある行動を取ってしまう。
ユリアーモの単語がどのような意味を持つのか、どのような間柄の人に対して使うものなのか、それを理解していないが故に、考えが思ってもみない方向へと進んでいってしまった。
前作『ことのはアムリラート』で描かれていた凛の孤独や不安は本作にも引き継がれている。ルカと良い関係になったとはいえ、不安が完全に無くなるわけでない。異世界ともなれば、不安を取り除くためにはもっと多くの時間が必要だろう。
本作は異世界という一種のファンタジーを描きながらも、人間が感じる孤独や不安を丁寧に描き出すことでキャラクターとストーリーにリアリティーを持たせている。彼女たちの心の葛藤はテキストのみならず、声色や表情からも感じ取れ、心に強く残った。
ラスボス・カナーコが繰り出す怒涛のユリアーモ
『いつかのメモラージョ』において、カナーコが果たす役割は大きい。
前作でのカナーコはルカにつらく当たっていたところを凛に咎められ、翻意。関係を修復し、ルカとは親友と呼べるまでの間柄になった。
本作では、逆にカナーコが凛とルカの間を取り持つ役割を担っている。作中で2人が仲違いした際、ルカにフォローを入れつつ、凛と真摯に対話しようと試みる姿は、ぶっきらぼうに見える彼女の根底にあるやさしさを感じさせた。
前作ではレイがその役割をこなしていたよね。今回のカナーコと違って、やさしく見守る感じだったけど。
アプローチの違いにキャラクター性が表れているのね。
カナーコはルカやレイと違って、日本語がまったく理解できない。会話は必然的にユリアーモになるが、凛のユリアーモ理解力は発展途上だ。筆者のユリアーモ理解力はもっと低い。
そんなユリアーモ初心者に向け、カナーコがユリアーモで10分以上しゃべり続けるパートがある。分かる単語を拾い読みしてなんとなく理解できたのは途中まで。後半は分からない部分も多かった。
ラスボスってユリアーモ10分トークのことだったのね……意味が分かったわ。
分からない言語のシャワーを浴び続けることで、プレイヤーも凛と同じ立場を味わう。
だが安心してほしい。本作には前作同様にクリア後に解禁される和訳モードが搭載されている。和訳をオンにするだけでテキストウィンドウの上部に和訳が表示される。筆者は和訳オンで2周目をプレイし、カナーコの言葉が理解できた。
10分ずっとユリアーモの展開には戸惑ったが、凛と同じ気分を味わう1周目、真の物語を理解する2周目と1粒で2度美味しい作りだ。
前半は3分の1くらいわかったけど、後半は厳しかった!
幼少期のルカのかわいさに心がときめく
『いつかのメモラージョ』のルカは前作にも増してかわいい。
笑ったり、困ったり、ジト目だったりと表情豊かな14歳のルカは前作と同様だが、本編クリア後に出現する「いつかの過去へ」シナリオに登場する8歳・ルカのかわいい小悪魔っぷりにときめかずにはいられない。
「いつかの過去へ」はレイとルカの出会いや同居の様子がレイ視点で語られるシナリオだ。少しツンとしていたルカがレイのやさしさに触れ、子どもらしさを取り戻していくストーリーは微笑ましい。
過去編のルカは凛の前で”保護者”として振る舞うルカではなく、レイにわがままを言って甘えてみたり、おてんばな行動をしてみたりと子どもらしい行動が愛くるしい。
「いつかの過去へ」では、過去を知ることでルカの言動の裏に秘めた思いが感じ取れる。
要は、自分がレイに昔してもらったことを凛にしてあげてるってところもあったわけね。
私は親目線でレイに感情移入しちゃったなー。ルカが幼い頃からちゃんと個人として尊重しているところがレイらしくてよかった。
システムには大きな不満なし
『いつかのメモラージョ』のシステム周りは一通り揃っており、大きな不満はなかった。
強いて言えば、バックログがテキスト一覧表示になり、少し読みにくい。誰のセリフか分かるように区切られているとなお良かった。
プレイ時間は7.5時間で満足できるボリューム
筆者のプレイ時間は7.5時間。
「いつかの未来へ」3つのエンディング、「いつかの過去へ」のエンディングまですべて音声を再生して6時間、「いつかの未来へ」2周目を和訳モードで音声を飛ばしつつクリアし、1時間半だった。
クリア後にはCGと音楽が閲覧・視聴できるようになる。さらに「いつかの過去へ」をクリアすると「レイの献立」がプレイ可能になる。
「レイの献立」は食材を選んで献立をクリックするとほかの必要食材が表示されるもので、楽しみながらユリアーモを学べる学習ゲームとなっている。
総合評価
総評:非常に良い
4.5/5
『いつかのメモラージョ』は異世界を舞台にした百合ビジュアルノベルだ。
凛はこの世界に留まることが正しかったのか思い悩み、ルカとつながっていた心が離れていってしまう。言語や立場の違いから生まれる不安や孤独などの感情を丁寧に描写したシナリオに心が打たれる。
前作では語られなかったカナーコの背景やルカとレイの過去などが明かされることで、キャラクターへの愛着が増すと同時にシリーズとして物語に厚みが生まれた。
ユリアーモ(エスペラント語)はあくまでエッセンス。すれ違いからさらに絆を深めていく2人の純愛ストーリーをぜひ多くの百合ゲーファンにプレイしてほしい。
- 凛の不安や孤独を丁寧に描写したシナリオ
- 背景が描かれ、魅力を増したキャラクター
- 表情豊かでかわいらしいルカ
- 読みにくいバックログ
『いつかのメモラージョ』
- 対応機種:PC
- 発売日:2019年3月15日
- 発売元:SukeraSparo、MangaGamer(Steam)
- 開発元:SukeraSparo
- ジャンル:純百合アドベンチャー
- シナリオ:J-MENT
- 原画・キャラクターデザイン:成瀬ちさと
- 筆者プレイ時間:7.5時間(全エンディング/2周プレイ)
- レビュー時のプレイ機種:PC(Steam) / Ver.1.1.1
※2023年1月24日時点
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