海外の百合ビジュアルノベルを応援する企画「海外百合ゲームで遊びたい!」第2弾となるこの記事では、数々の百合ゲームをリリースしてきたebi-himeへのメールインタビューをお届けする。
百合ビジュアルノベルの制作をはじめたきっかけから、日本の百合ゲームで好きな作品、多作の秘訣など、さまざまなお話を伺った。
ebi-hime(エビヒメ)


ebi-himeは数多くの百合ビジュアルノベルを制作している個人のゲーム制作者。直近では『Dreamy Planet』『Salome’s Kiss』などをリリースしており、『Blackberry Honey』は日本語でもプレイ可能。
ebi-hime
――百合ビジュアルノベルを作り始めたきっかけを教えてください。
ビジュアルノベルを書き始めたのは2012年ですが、読み始めたのは2010年頃です。最初はかわいい女の子が登場する、いわゆる萌え系の作品を多く読んでいました。たとえば、Navelの『Shuffle!』(編注:2004年発売の美少女ゲーム)は私がはじめて触れた作品の1つで、今まで読んだ作品のなかで一番制服が素敵だったと思います(笑)。でも女の子は好きだけど、男性主人公がおもしろくなかったり、うっとうしく感じてしまって……。それで女性主人公のビジュアルノベルを読むようになりました。
2010年当時は英語で読める百合ビジュアルノベルがまだ少なかったんです。たしか英語で読める作品は『その花びらにくちづけを』ぐらいでした。もう少しバラエティに富んだ百合ビジュアルノベルが読みたかったのですが、英語の作品がなかったので、自分で書くことにしました。
――影響を受けた作品はありますか?
私はさまざまなジャンルの物語を書いているので、特に影響を受けた作品があるかどうか、判断するのは難しいです。私のゲームでたとえると『Salome’s Kiss』のようにヴィクトリア朝のイギリスを舞台にした歴史ものと『My Dear Prince』のように現代日本を舞台にしたかわいくてライトな作品ではかなりトーンが違いますからね。
私の作品に最も大きな影響を与えたのは『うみねこのなく頃に』でしょうか。ビジュアルノベルというものを知るきっかけになりました。もしこの出会いがなければ、ビジュアルノベルの存在を知ることもなかったですし、自分の作品を書くこともなかったと思います。今でも大好きな作品です。ベルンカステルとラムダデルタはとてもかわいいです!
――日本の百合ビジュアルノベルで知っている作品があれば教えてください。
今までに英訳された日本の百合ビジュアルノベルはほぼ読んだと思います(笑)。最後まで読んだわけではありませんが、それなりの数の作品にふれましたし、さらに別の作品にも手を伸ばしています。
私は百合ビジュアルノベルがとても好きなので、業界を応援したいと思っています。英語で発売された作品は興味があるかどうかに関わらず、ほとんど即買いする傾向があるんです。
日本の百合ビジュアルノベルで好きなのはキャラクターデザインがとてもかわいい『白衣性愛情依存症』や『りりくるRainbow Stage!!!』などでしょうか。『りりくる』はとにかくかわいくて……。イラストもUIも声優さんもみんなかわいいです!アリスと伊吹が好きすぎて、日本のドラマCDを買ってしまいました。日本語はほとんど分からないし、CDプレイヤーも持っていないのに(笑)。でも、自分が興味のあるものを応援することに意義があるんです!
未訳の作品では『アトラク=ナクア』(編注:1997年発売のR18ゲーム)をいつか読んでみたいです。かなりエッジが効いてそうなので。というか、もっとグロい百合ビジュアルノベルが読みたい!元気でかわいい作品はたくさんありますが、もっとホラーをテーマにした作品がほしいです!もっとヤンデレ百合があればいいのに……。アリスソフトの作品は英訳でたくさんリリースされているので『アトラク=ナクア』もいつかは英訳が実現するかもしれませんね。
私は道徳的に問題のあるキャラクターが登場するダークな話が好きなのですが、サラ・ウォーターズ(編注:ウェールズのミステリー作家)の『半身』はお気に入りのレズビアン小説で、とても悲しい作品です。
――翻訳ツールを使用してビジュアルノベルをプレイすることについてはどう思いますか?
機械翻訳については、ちょっと複雑な心境です……。私自身は人とのコミュニケーションに機械翻訳を使ったことがあるので、それが悪いと言ったら偽善者になってしまいます。skebでアーティストに依頼するときにとても役立っていますし、感謝しています……。
ただ、個人的には長編の作品を読むのに機械翻訳を使うことはないですね。私は物語中の文章にはとてもうるさいので、文体が自分に合わないと感じたら、読むのをやめてしまいます。
機械翻訳は時制や代名詞などがめちゃくちゃになることもあるし、ことわざやダジャレ、口語も得意ではないので、物語を読もうとすると大変なことになると思うんです。良く言えば、少し堅苦しい文章になり、悪く言えばほとんど解析不可能なものになってしまうかもしれません。
私には機械翻訳を使って物語を読む忍耐力はありませんが、それを望む人を否定したいわけではありません。正直なところ、翻訳家に依頼する資金を捻出するのは難しいので、日本のプレイヤーが私の作品にふれたいと思ったら、機械翻訳しかないのかもしれないです……。ごめんなさい。でも、もし機械翻訳を覚悟で読んでくださる方がいらっしゃるなら、それはとてもうれしいことですし、気になりません!
――あなたが作品をリリースするペースはかなり早いと思います。その秘訣をこっそり教えてもらえませんか?
物語を書くのが好きなので、ついつい書いてしまうんです。子どもの頃はポケモンの二次創作をたくさん書いていたし、10代の頃はJRPGやアニメの二次創作を書き続け、大人になった今ではビジュアルノベルのシナリオを書いています。頭のなかにはいつもたくさんのアイディアが浮かんでいるので、一生かかっても書ききれないんじゃないかと心配になるぐらいです……。でも、これからも頑張ります!
多くの作品を早くリリースできるのは、私がかなりの速筆であること(かなり練習しました)、フリーランスの仕事をしているので、他の人よりも時間に余裕があること、一度に多くのプロジェクトのアセットを依頼することが多いからです。私の作品は12万ワードぐらいが目安でストーリーは長くないので、比較的早くリリースできます。もしもっと長い作品を作っていたら今のリリーススケジュールは維持できないと思います。あるいは睡眠時間を削らないと……。
――日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
正直なところ、日本の方が私の作品に興味を持ってくれることに驚いています。有名なビジュアルノベルを制作している会社の多くは日本にあり、大きな予算でボリュームのある作品を作り出しています。私はたったひとりですし、制作に必要な資金は自分で集めています。制作費を使いすぎないように、ストーリーに対してどれぐらいのアートを依頼するか、どのアーティストと仕事をするかについてはかなり慎重にならざるを得ないですし、日本のビジュアルノベルのように声優を起用したり、多くのCGイラストを用意したり、アニメーションなどの映像演出など凝ったものには手が出せません。私の作品は日本のビジュアルノベルと比べると洗練されていないように感じています(たとえば、『FLOWERS』のようなレベルのものを作ることができるかどうか分からないです)。
おわりに



ebi-himeさん、ありがとうございました!
大ボリュームの返答を頂いたため、別記事にて紹介させて頂いた。
彼女は制作者であると同時に熱心なプレイヤーでもあり、ビジュアルノベルに並々ならぬ愛情を持っている。熱心な語りに引き込まれ、私は思わず『アトラク=ナクア』を購入してしまった。
一方で口語の多い文章には翻訳の難しさを感じた。大ボリュームの回答を返して頂いたところからもテキストを愛し、書くことそのものを楽しんでいる様子が伝わってきた。



百合=即買いする気持ち、よく分かります!
前回の百合ゲーム制作者へのインタビュー記事も要チェックだ。

