「ゆりりかる」では日本の百合ゲームだけでなく、海外の百合ゲーム文化も紹介してきた。言語の壁はあっても、百合を愛する気持ちは同じ。もっと海外百合ゲームの世界を日本のプレイヤーにも知ってもらいたい。
そこで「ゆりりかる」では、海外の百合ビジュアルノベルを応援する特集を企画した。
第1弾となるこの記事では、百合ビジュアルノベルを制作している4つのスタジオにメールインタビューを実施。制作をはじめたきっかけから、好きな日本作品や翻訳ツールの使用についての考えなどをそれぞれの代表者に伺った。
Studio Élan (スタジオ・エラン)
Studio Élanは百合ビジュアルノベルを制作している多国籍のゲームスタジオ。『Highway Blossoms』『Heart of the Woods』などファンタジーな世界観を持ち、エモーショナルな作品をリリースしている。最新作は『Please Be Happy』
Josh Kaplan (Studio Élan)
――百合ビジュアルノベルを作り始めたきっかけを教えてください。
Josh:私が初めて作った百合ビジュアルノベル『Highway Blossoms』はStudio Élanを設立する以前に発売しました。当時はかわいい女の子のストーリーを描いただけのつもりでしたが、女の子2人の関係性を好むプレイヤーがいました。そこで、そういう作品をもっと作りたいと思い、Studio Élanを立ち上げました。私たちのチームメンバーにはLGBTが多いので、LGBTを表現することはとても大切なことです。今はLGBTのキャラクターがスリリングでエキサイティングな冒険をする物語を伝えたいと思っています。
――影響を受けた作品はありますか?
Josh:チームメンバーによって異なります。私はNightwish(編注:シンフォニックメタルバンド)や欧米の古いビジュアルノベルから大きな影響を受けています。最近では映画を見たり、ビデオゲームをするたびにそこから何かを学んで、Studio Élanのゲームをより良いものにしようと心がけています。また、作品のディテールや舞台には実生活での体験を多く取り入れています。
――日本の百合ビジュアルノベルで知っている作品があれば教えてください。
Josh:日本の百合ビジュアルノベルで好きなのは『FATAL TWELVE』『屋上の百合霊さん』です。他にもプレイしたことはありませんが、アートを尊敬しているのは『FLOWERS』『推しのラブより恋のラブ(OshiRabu)』『りりくるRainbow Stage!!!』です。
――翻訳ツールを使用してビジュアルノベルをプレイすることについてはどう思いますか?
Josh:わざわざ私たちのビジュアルノベルをプレイしてくださる方がいるのは信じられないほどうれしいですし、光栄です。もっと手軽に楽しめるものがたくさんあると思うので、そのような努力を惜しまない人がいることは私たちにとって大きな意味があります。
――今後、あなたたちの作品を日本語にローカライズする予定はありますか?
Josh:自分たちのビジュアルノベルを日本語にローカライズするのは私たちの夢です。日本の店舗でゲームを販売したり、コミケなどのイベントにも参加したいです。費用の面で今はまだ難しいですが、将来的にはぜひとも実現したいと思っています(編注:現在、日本語ローカライズをストレッチゴールとしたKickstarterを開催中)。
――日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
Josh:ビジュアルノベルが日本で生まれたことを考えると、小さなチームである私たちによって、世界中にプレイヤーがいることは有意義で特別なことです。私たちのゲームを見つけ、プレイしてくれた皆さんにとても感謝しています。プレイしてくれてありがとうございます。
Yume Creations (ユメ クリエイションズ)
Yume Creationsは恋愛アドベンチャーゲームやアクションゲームを開発している個人制作のプロジェクト。『Apprehend;Girlfriend』『Neighbors by Chance』などの百合ビジュアルノベルをリリースしている。
Steffi (Yume Creations)
――百合ビジュアルノベルを作り始めたきっかけを教えてください。
Steffi:私は長年にわたって百合漫画とアニメのファンです。英語でプレイできる百合ゲームが少なかったのが残念だと感じていて、自分で百合ゲームを作りたいと思っていました。
――影響を受けた作品はありますか?
Steffi:私のゲームはアニメや漫画、ライトノベル、ゲームから影響を受けていますが、他のメディアをそのままコピーするのではなく、常にユニークなものを考え出すようにしています。たとえば、私の百合ゲーム『Apprehend;Girlfriend』で日本のシェアハウスを舞台にしたのはYouTubeのいくつかの動画を見て、その設定で物語を書きたいと思ったからです。
――日本の百合ビジュアルノベルで知っている作品があれば教えてください。
Steffi:いくつかあります。『その花びらにくちづけを』は初めてプレイした百合ゲームです。あとは『FLOWERS』『きみはね 彼女と彼女の恋する1か月』『屋上の百合霊さん』が好きです。
――翻訳ツールを使用してビジュアルノベルをプレイすることについてはどう思いますか?
Steffi:私自身、日本のゲームをプレイするために翻訳ソフトを使用しているので、問題ありません。
――今後、あなたの作品を日本語にローカライズする予定はありますか?
Steffi:日本語にローカライズしたいと思っています。しかし、私の日本語のスキルが十分でないことや費用の面から、今すぐには難しいです。将来的にできるといいなと思っています。
――日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
Steffi:私は子どもの頃から、アニメと日本の大ファンです。私のゲームをプレイして頂いて感想を頂けるととても光栄です。もし百合ゲームを自作する場合は英語にローカライズすることも検討してください。欧米のパブリッシャーが喜んでお手伝いしてくれるでしょう。
Oracle and Bone Studio (オラクルアンドボーンスタジオ)
Oracle and Bone Studioは女性2人が設立したカナダ・バンクーバーのスタジオ。香港を舞台にした百合/レズビアンビジュアルノベル『A Summer’s End – Hong Kong 1986』をリリースしている。
Charissa So (Oracle and Bone Studio)
Tida Kietsungden (Oracle and Bone Studio)
――百合/レズビアンビジュアルノベルを作り始めたきっかけを教えてください。
『A Summer’s End – Hong Kong 1986』を作ったのは、自分たちにとって重要なテーマに触れるストーリーを伝えることに興味があったからです。私たちは1980年代のアジアのエンタメが大好きで、ゲームのなかでそれをオマージュしたいと思いました。
――影響を受けた作品はありますか?
1980年代から1990年代の香港や台湾の映画にインスピレーションを受けました。特にウォン・カーウァイやエドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンといった映画監督たちの作品が好きでした。
ゲームのビジュアルデザインは1980年代の美意識を感じさせるものにしたいと思いました。特に北条司の『シティーハンター』や『キャッツアイ』、まつもと泉の『きまぐれオレンジ☆ロード』など、私たちが子どものころに好きだった作品を参考にしています。
――百合/レズビアンビジュアルノベル作品を制作したのはなぜですか?
女性として、レズビアンを意識したクリエイターとして、個人的に大切な物語だと感じたからです。『A Summer’s End – Hong Kong 1986』が与えるメッセージは、プレイヤーを勇気づけ、ポジティブな気持ちにさせるものでありたいと願っています。
――翻訳ツールを使用してビジュアルノベルをプレイすることについてはどう思いますか?今後、あなたの作品を日本語にローカライズする予定はありますか?
時間を割いて私たちのゲームを読んでくれるプレイヤーに感謝していますし、そのために翻訳ツールを使用することを気にしないでください。日本語にローカライズすることにも興味を持っています。
――日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
私たちのゲームをプレイしてくださっている日本のみなさまに感謝いたします。ストーリーやゲームプレイを楽しんでいただければ幸いです。
Garakowa Marshmallow (ガラコワ マシュマロ)
Garakowa Marshmallowはロープライスの百合ビジュアルノベルを制作している中国のゲームスタジオ。これまでに『Last Days』『My Cat Girl Lover』をリリースしている。最新作は2023年2月にリリースした『sayonara』
瑠璃 (Garakowa Marshmallow)
訳:雨涵(ユーハン)
――百合ビジュアルノベルを作り始めたきっかけを教えてください。
瑠璃:小さい頃からファンタジーなどの世界観やキャラクター設定、ストーリーに惹かれていました。みなさんももしかすると「中二(厨二)」だった時期があるかもしれませんが、大人になっていくうちに消えてなくなりますよね。ただ僕自身のなかでは「中二」というものがまだ終わっていなかったのです。
様々な物語に触れたいという思いが募り、動画、ラジオ、小説に興味を持ち、そして最後に行き着いたのがゲームでした。それから百合作品の影響を受け、自分の作品でも百合が多くなってきました。
――影響を受けた作品はありますか?
瑠璃:初めて百合に触れたきっかけは、TVアニメ『citrus』でした。当時は百合作品に対して特に意識していなかったのですが、この作品自体が気に入っていました。それからビジュアルノベルにも少しずつ触れていき、『推しのラブより恋のラブ』をプレイしてから百合というジャンルを知りはじめ、創作に関する知識を学びながら関連作品をプレイしてきました。この2作品がきっかけになったと言えます。
――日本の百合作品のなかで知っている作品があれば教えてください。
瑠璃:百合作品で好きなタイトルを挙げます。小説で一番好きなのは『安達としまむら』、漫画で印象に残っているのは『きたない君がいちばんかわいい』アニメでは『マリア様がみてる』がお気に入りです。『ツユチル・レター~海と栞に雨音を~』の続編にも期待しています。もちろん他作品も多数知っています。そのため割愛させていただきます。
――過去にリリースされた2作品は日本語に対応していますね。積極的に日本語ローカライズを進めているのはなぜでしょうか?
瑠璃:これまで読んできた小説やプレイしたゲーム、アニメなどもほとんど日本の作品でした。つまり日本語の作品に最も影響を受けたと言えるでしょう。日本語ローカライズを進めていくのも今の目標の一つです。ユーハンさん(ゲーム翻訳者・同デベロッパーの作品のローカライズを担当)に自分の作品を見つけてもらい、協力して頂けるのはとても喜ばしいことです。3作品目となる『sayonara』の日本語対応についても、もう少しで完成します。
――日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
瑠璃:日本の作品が大好きです。細やかな感情表現、登場人物の心理描写や日常の描き方はどれも素晴らしいです。それに日本の皆さんはとても親切で、応援してくださる方もいます。僕自身のお気に入り作品に比べれば、自分の作品はまだまだほど遠いですが、みなさんのコメントにいつも励まされています。今後とも百合作品の制作と日本語ローカライズを進めてまいりますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
おわりに
各スタジオのみなさん、お忙しいなかご協力頂き、ありがとうございました!
メッセージのやり取りを通じて、多くのクリエイターが日本の作品から影響を受けていたり、お気に入りの作品があることが分かり、日本とのつながりを強く感じた。
一方で費用の面でローカライズへの壁は高い。ビジュアルが気に入った作品があれば、まずは機械翻訳を使ってでもプレイしてみてほしい!そしておもしろいと感じたら、それをシェアすることで日本のファンを増やし、業界をともに盛り上げていってほしい。
まだまだ発展途上のジャンルなんだと思うのよ。
まだ日本市場、ポテンシャルあるって信じてる!
最後にもう1名、インタビューを行った制作者がいるが、大ボリュームの回答を頂いたので、別記事にて公開している。
なお、本記事の制作は日本の百合ゲームブランド・SukeraSparo/SukeraSomero 古賀プロデューサーの「海外の百合ゲー制作者って日本の百合ゲーどれぐらい知ってるんですかね?」の一言をきっかけにスタートしたものです。古賀プロデューサーありがとうございました!