都市伝説(フォークロア)は時代の変化とともに、八尺様やくねくねなどのネットロアを吸収しながら怖い話の一種として発展してきた。以前には口伝だったものが、ネット掲示板で広まったりと流布の手段も変化している。
『クダンノフォークロア』はそんな都市伝説を題材としたミステリー百合ビジュアルノベルだ。
主人公の九段朔夜が東京・九段に現れる怪異”クダン”によって引き起こされる事件に立ち向う。その過程でオカルト好きの後輩やおっとりした料理教室講師との関係を育みながら、より大きな謎に迫る。
怪異とミステリー、百合描写がミックスされた本作はプレイしはじめると謎に引き込まれ、没頭してしまう。優れたミステリー作品であった。
本記事では『クダンノフォークロア』のあらすじやヒロインを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
PC版
Switch版
あらすじ
夜、街灯の下に現れる女の噂話が流行っていた。その女は”クダン”と呼ばれ、不吉な予言をする黒いドレス姿の女だという。
ある日、高校生の朔夜は学校帰りに自転車が故障して困っていた女性・塔子を助ける。
その出会いをきっかけとして、朔夜は塔子の料理教室に通うようになった。
ある日、料理教室の生徒の一人がクダンに出くわした後、怪我をして入院してしまう。
お見舞いに行った塔子にクダンの魔の手が迫っていた。
登場人物紹介
九段 朔夜 (くだん さくや)
九段女子高等学校2年生。
体育科の特待生で剣道部に所属。女子学生剣道選手権大会では準優勝している。
快活な性格。
志摩 塔子 (しま とうこ)
料理教室講師。
財産家の令嬢。
おっとりとした性格。
春夏冬 小兎 (あきなし こと)
九段女子高等学校1年生。
神秘学研究会部長でオカルトに詳しい。
休みの日もフィールドワークを欠かさない。
吾妻 佳恋 (あづま かれん)
九段女子高等学校2年生。
体育科の特待生でソフトボール部のエース。
朔夜とはむかしからの親友。
岩井 紗和子 (いわい さわこ)
塔子に仕える使用人。
クールな性格で、あまり表情が変わらない。
レビュー
都市伝説(フォークロア)とミステリーが絡み合う良質なシナリオ
『クダンノフォークロア』は都市伝説を題材にした3つの謎と、全編に渡るもっと大きな謎を中心に話が進んでいく。
- クダン
- フォーチュンライン
- 夜売百物語
初めに登場するクダンは、夜の街灯の下に突然現れる西洋風の喪服を着た女で、雰囲気は抜群だ。不吉な予言を人に残していくだけで、特に救いがないところがいい。
次に登場するフォーチュンラインと夜売百物語は、行動によって願いが叶う「おまじない」の性質を持っている。願いをかなえるために女子高生たちは進んで「おまじない」を実行し、都市伝説の伝播に一役買うのだ。
正直、この2つは内容がかぶってるんだよね。
むかし『マイバースデイ』っていうおまじないの少女雑誌、あったよね。都市伝説とか「エンゼルさん」とか載っていたっけ……。
都市伝説とおまじないはむかしから仲がいいのよ。
3つのフォークロアはいずれも過去に流行した都市伝説の要素を取り入れ、身近な怪談としての性格を持っている。
おもしろかったのは、各章がはじまる前のシルエットの女性2人が怪異を語るシーンだ。
この後に作中で登場する怪異のエピソードを2人で顔を突き合わせながらキャッキャウフフと話しているのだが、終盤に突然こちらを見て、メタ的にプレイヤーへの問いかけている。「あなたは?」と。
傍観者としてフォークロアを聞いていたはずのプレイヤーが突然画面の中の怪異に引きずり込まれるような演出で、背筋がゾクッとした。
ここは「カシラカシラ、ご存じかしら」の影絵少女のオマージュね。
私、『少女革命ウテナ』は履修していない……。
いくら怖い話でもそこに現実感がなければ、身に迫った恐怖は感じにくいだろう。
ホラー映画に生々しい恐怖を感じるのは襲われているキャラクターに乗り移って感情移入するからだ。
アニメのように1秒1秒と近づいてくる恐怖を再現するのが難しいビジュアルノベルにおいて、突然手をつかまれるような恐怖を作り出す演出が素晴らしかった。
作中では怪異に関連する事件が発生し、朔夜が真相を暴いていくミステリー要素もある。章の終盤では選択肢による謎解きが現れ、1つでも間違えるとバッドエンドとなる。
ストーリーを追っていれば難しすぎることはなかった。
作品全体に横たわっていた大きな謎には旧家の因習がからみ、昭和の横溝ミステリーを彷彿とさせる。
大きな謎へは物語の序盤から道筋が付けられており、筆者は仕込まれたミスリードにまんまと引っかかってしまった。都市伝説とミステリーを絡めたストーリーはホラーや怪談に造詣の深い志水はつみ氏ならでは。おもしろいシナリオだった。
気になったポイントもある。
“クダン”といえば、半人半牛の妖怪”件(くだん)”を想像してしまうため、人間の姿をした本作の”クダン”はどうしてもイメージから外れる。
本作には3つのクダンとして、怪異:”クダン”、場所:”九段”下、主人公:”九段”朔夜が登場する。とはいえ、場所が九段下である必然性や主人公の名前が九段でなければならない理由は感じられなかった。
夜に現れる女(口裂け女)、徐々に近づいてくる(メリーさんの電話)、予言をする(くだん)など怪談・都市伝説をミックスして誕生した本作のクダンは怪異の集合体であり、本家に比べてインパクトは弱い。それを補うために3つのクダンとされたのではないかと感じた。
”くだん”と言えば、なんといっても小松左京先生の『くだんのはは』が印象深いわよね。現代ものとしては『新耳袋』の第五夜にもたしか、くだんの話が……。
百合要素はさっぱりめ、2人の正反対の女性の間で揺れる心
『クダンノフォークロア』のもう1つの要素、百合に関しては恋愛的な要素が薄く、さわやかだった。
攻略対象は塔子と小兎の2人。どちらも乙女っぽい一面を持っているが性格は対称的で、朔夜が好きになるポイントは異なる。
朔夜は年上の塔子のおしとやかで女性っぽい所作に憧れを頂いている。それは朔夜が竹を割ったようなさっぱりした性格で周囲から男っぽいと見られ、コンプレックスを感じていたからでもある。
塔子は自分を守ろうと奮闘する快活な朔夜に気持ちを動かされる。2人はお互いが持たざるものを持つ相手に淡い好意を抱いていく。
一方、後輩の小兎に対してはある種似たもの同士のような心地よさを感じている。朔夜は彼女の気の強さや物事に立ち向かっていくガッツを気に入っている。物事を一歩引いて冷静に観察したり、相手の意図を組んで行動ができるなど感覚も近い。
小兎は頼りがいのある先輩の朔夜にずっと憧れていた。朔夜と小兎はお互い似た部分を持つ相手に恋愛感情を抱いていく。
2人の違いは出会いの時点ですでに感じ取ることができる。
塔子との出会いは道で彼女の自転車を直してあげる、”助けてあげる”ものだ。
小兎との出会いは彼女が服装を咎められたときに助太刀する、”一緒に戦う”もの。
どちらも救うことには変わりないが、朔夜の立ち位置は異なっている。両方とも朔夜の人生には欠かせない大切な心持ちであり、率先して救いたいと思えるからこそ恋愛関係に発展していくのだろう。
塔子と小兎の性格を正反対にするだけでなく、朔夜の感情を揺さぶる部分まで変えたことで個性が際立っている。
塔子も小兎も全体に関わる大きな謎に欠かせない人物となっており、恋愛だけでなくミステリーに関わるキャラクターとして大きな存在となる。
朔夜のキャラクター造形は好みが分かれるかもしれない。
志水はつみ氏の他作品で登場する内気なキャラクター、蘇芳(FLOWERS)やアリス(神田アリス も 推理する。)と違い、友情・努力・勝利と聞こえてきそうな『少年ジャンプ』の主人公のような人物だ。完璧超人とも見え、筆者は感情移入しにくいと感じた。
ちなみに主人公の親友・佳恋は攻略対象外だ。(それっぽい描写もあるのだが……)
完璧なキャラクターデザイン、要所で光る音楽
『クダンノフォークロア』のキャラクターデザインははねこと氏が担当。どのキャラクターもかわいらしく描かれており、立ち絵のポーズにいたるまで余すところなくかわいい。
筆者がとくに気に入ったのは小兎。
ちっちゃくて気が強いギャル、しかも金髪ショート。高校生としてはかなり個性的なキャラクターだ。
左手首のブレスレットやシュシュ、ピアスなど身につけている小物がかわいいのもポイントが高い。馴れ馴れしさと礼儀正しさの間を行き来する話し言葉。そしてキャラクターにマッチした長縄まりあさんのボイス。まさに完璧なキャラクター造形だ。
石見舞菜香さん演じる塔子の浮世離れしたおっとりお嬢様ボイスもキャラクターにピッタリでポイント高し!
塔子さんの立ち絵の「ちょこっとね」みたいなポーズ、とにかくかわいい!
オープニング曲『二つの光』は美しいピアノとローファイなドラムサウンドからのドラマチックな展開が本作のイメージと一致している。影のある映像と一緒にストーリーの行く末を感じさせる作りだ。
BGMでは怪奇色を感じさせる『ミスティア』『フォークロア』がダークな雰囲気で気に入った。
システム面は問題ないが、一部キャラクター音量のバランスが気になる
『クダンノフォークロア』のシステムは通常のノベルゲームと同様で、不足に感じるものはなかった。
唯一気になったのが小兎の音声ボリュームのバランスだ。
小兎は小声でボソッとしゃべるシーンがある。それを聞き取るために小兎ボイスの音量を上げると大きな声を上げるシーンでは音量が大きくなり過ぎて、ちょうどいいボリュームを見つけられなかった。
キャラクターの性質上、仕方がないのだが、もう少し調整が効いていると良かった。
プレイ時間は10時間、すべてを知るにはトゥルーエンド必須
筆者のプレイ時間は10時間。
選択肢によって最終ルートが決まる方式で、間違えると即バッドエンドになる推理パートなどもあるため、その都度セーブしながらクリアを目指していく。
エンディングは3種類。塔子、小兎いずれのエンディングも消化不良になるため、ストーリーの全容を把握するためにはトゥルーエンドを見るのが必須だ。
- 塔子エンド
- 小兎エンド
- トゥルーエンド
クリア後にはエクストラモードが解放され、以下が閲覧・視聴できるようになる。
- CG鑑賞(27枚+立ち絵5枚&ボイスコメント、OPムービー)
- BGM鑑賞(12曲)※OP/EDはインスト
総合評価
総評:非常に良い
4/5
『クダンノフォークロア』はミステリー百合ビジュアルノベルだ。
ストーリーは不吉な予言をする女の怪異”クダン”の都市伝説(フォークロア)にはじまる。旧家の因習に絡んだ大きなミステリーは謎解きのしがいがあり、おもしろかった。
怪異や事件で雰囲気が殺伐としそうな場面ではおっとりした美人・塔子とやんちゃで聡明な後輩ギャル・小兎との恋愛模様が間に挟まり、プレイヤーの心をホッと和らげる。
イチャイチャした百合ゲーよりもミステリー要素の強い百合ゲーを好む人におすすめしたいタイトルだ。
- 大きな謎と小さな謎が埋め込まれた優れたシナリオ
- 恐怖を生み出す演出
- キャラクターの特徴を生かしたかわいいイラスト
- 後半2つのフォークロアのインパクトが薄め
- 快活すぎる主人公
『クダンノフォークロア』
- 対応機種:Nintendo Switch、PC、iOS、Android
- 発売日:2023年12月21日(Switch)、2019年4月26日(PC)、2019年11月8日(iOS/Android)
- 発売元:SukeraSparo
- 開発元:SukeraSparo
- ジャンル:百合系フォークロアアドベンチャー
- シナリオ:志水はつみ
- 原画・キャラクターデザイン:はねこと
- 筆者プレイ時間:10時間(全エンディング)
- レビュー時のプレイ機種:PC(クダンノフォークロア特装版)
※2023年12月21日時点
PC版
Switch版