『FLOWERS 四季』はテキストベースの百合ミステリィアドベンチャーゲームだ。
2014年からPC/PSP/PS Vitaで発売されてきた『FLOWERS』4作品を1つにまとめたのが『FLOWERS 四季』であり、はじまりの『春』から終わりの『冬』までを一気にプレイできる。
スギナミキ氏の描くキャラクターの魅力と志水はつみ氏の書く大人びた言葉遣いが相まって、少し浮世離れした耽美な世界観を作り出している。
『FLOWERS 四季』は全体として素晴らしく、百合ゲーとして忘れられない優れた作品だった。
本記事では『FLOWERS 四季』のあらすじやヒロインを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
あらすじ
全寮制のミッションスクール・聖アングレカム女学院。
学院には試験と面接の結果をもとに定めた友人《アミティエ》を3名同室にし、寝食を共にさせる制度があった。
小学校時代に不登校になり、友達ができるか不安だった蘇芳にとってアミティエ制度は魅力的だった。
学院に入学し、クラスメイトやアミティエとの仲も徐々に深まって行く中、事件が起きる。
登場キャラクター紹介
白羽 蘇芳 (しらはね すおう)
1年生。春・冬の主人公。
小学校は不登校で今までまともに人付き合いしてこなかったことから、会話中はオドオドしがち。
読書家で映画好きでもあり、名言の引用が多く、語彙も豊富。
匂坂 マユリ (こうさか まゆり)
1年生。明るく社交的な性格で、クラスの人気者。
しかし、一瞬表情に陰がさすことも。
お菓子作りと絵を描くことが好き。
花菱 立花 (はなびし りっか)
1年生。クラス委員を務める。性格は堅物。
紅茶マニアで、自慢の紅茶を振る舞うお茶会を開催している。
八重垣 えりか (やえがき えりか)
1年生。夏篇の主人公。車椅子で生活している。
人嫌いで斜に構えた発言も多く、ぶっきらぼう。
自らを書痴と称する読書家。
筆者の推しです!!
考崎 千鳥 (たかさき ちどり)
夏に転入してきた1年生。
芸能人で、歌やバレエが得意。
表情に乏しく、クラスメイトからも距離を置かれている。
八代 譲葉 (やつしろ ゆずりは)
2年生。ニカイアの会(生徒会)の会長。
一人称は「僕」で、ふるまいはジェントル。生徒たちの憧れの的である。
料理部に所属しているが、料理は苦手。ネリネとは幼なじみ。
小御門 ネリネ(こみかど ねりね)
2年生。ニカイアの会(生徒会)の副会長。
おっとりとしているが、怪談好きで大食いの一面も。
合唱部の部長でもある。
沙沙貴苺・林檎 (ささき いちご・りんご)
1年生。双子で見た目もそっくり。見分けるポイントは髪型と目の下のホクロ。
姉・苺は元気で明るく、妹・林檎はおっとりした読書家。
レビュー
ゆっくりと関係を深めていく凛とした百合
『FLOWERS 四季』に登場するキャラクターたちは、ゆっくりと関係を深めていく。
印象的なのが、春篇の冒頭で蘇芳が沙沙貴姉妹(双子)に「友達になってくれる?」と聞くシーン。
沙沙貴姉妹は天真爛漫なキャラクターで、すぐに「いいよ!」と言いそうなのだが、姉・苺には「ごめんね」と言われ、妹・林檎からは「友達だよねと確認してから友達になるのは、本当の友達ではない」と諭される。
1年をかけて、徐々にクラスメイト→友だち→親友と関係が深まる様子が丁寧に描写されている。
仲間の助けを得て、自らのトラウマと対峙するようなシーンもあり、友情ものとして優れている。
恋についても同じく。
恋の前段階としてまず憧れがある。
相手に憧れ、親しく接していくうちに今まで見られなかった弱さや暗い感情、悩みなど、相手の負の面も理解した上で、ついには恋へと発展する。
キャラクターによっては一方的な感情が暴走して相手を苦しめるシーンもあり、人間関係の苦い部分もストレートに描いている点がリアルだ。
百合作品には「心理描写」が細かいものが多いが、『FLOWERS』は細やかな心の移り変わりの描写が特に良い。
優れた《謎解き》
『FLOWERS 四季』は百合ゲーとしてだけではなく、ミステリとしても優れている。
作中で起こる事件は、
- 図書室の本を返却しない犯人
- 学校行事の最中にいなくなってしまったクラスメイトの行方
など、ミステリジャンルでいうところの《日常の謎》を扱っている。
推理場面では、今まであった出来事に仕込まれていた伏線をもとに謎を解いていく。なにげないシーンに上手くピースが隠されており、謎解きがいがあった。
筆者は最初の謎解きで今まで明示されていないことまで深読みしてしまった結果、バッドエンドとなった。
基本的にヒントはこれまでのストーリーの中に隠されている(一部プレイヤーの知識に頼る場面もある)。
推理が披露されたあとに、あーあそこも伏線だったのか!と気づくことが多く、楽しかった。
ヒントが少ないと思った場面でも、別ルートを進むとしっかりと伏線が用意されていて、エンディングありきでルートを用意したわけでもない点も良かった。
難易度はほどよく、どうしても分からなければ選択肢総当りでもクリアできる。そのため、クリアできずに詰んでしまうことはない。
美しい言葉遣いとスパイスとしての引用
志水はつみ氏の書くシナリオは言葉遣いが丁寧で、文学的だ。
主人公が低年齢のわりに俗っぽい言葉が少なく、洗練されている。
「佳い」「為った」など、わざと読みにくい漢字をあてているところも多く、世間から隔絶された全寮制女子校の浮世離れした雰囲気を強調している。
チャプターのはじめには物語を暗示するように、グリム童話や文学作品からの一節が挿入され、細かなところも文学を意識した作りになっている。
主人公の蘇芳、えりか、譲葉の3人はいずれも読書家で物知りだ。
彼女たちのセリフにはさまざまな映画や本から名言が引用される。
「ダークナイト・ライジング」が出てきたと思えば、「椿三十郎」やヘミングウェイが出てきたりと作品の幅は古今東西にまたがる。
引用作品を知らないからと言って、おもしろさが削がれるわけではない。ほんのスパイス程度で、知らない作品があると逆に興味がそそられる。
「エラリー・クイーンよりフィリップ・マーロウのほうが好きだ」と言うえりか、最高ですね!
読書家のキャラクターが大人びた言葉遣いなのは理解できるが、子どもっぽい苺まで(諸説あるという場面で)「広く流布しなそう」など、硬い言葉遣いなのは少し気になった。
ちょっぴりホラーテイスト
『FLOWERS 四季』では何度かキャラクターが怪談を話すシーンがある。
- 公園で歌の練習中に遭遇した怪異(マユリ)
- 姉が通院中に病院で見た赤い紐(えりか)
- 合わせ鏡と夢(蘇芳)
どれも秀逸だ。怪異の正体を明示せず、曖昧に余韻を残す終わり方なのがよい。
公園の話、怖すぎるんだけど! 急な本格怪談に、背筋がゾゾーーッとしたわよ。
ホラー映画の小ネタも豊富だ。
ハロウィン衣装のネタバレ注意(+を押して開く)
ハロウィンの仮装で、沙沙貴姉妹は水色のワンピースを着て、映画『シャイニング』に登場する双子の姉妹に扮する。
姉妹が飼っているペットの名前はリサとルイーズ。『シャイニング』の姉妹と同じ名前だ。
蘇芳がしつこく過去の幻影に悩まされる様子もまさにホラーだ。
クオリティの高い作中劇
『FLOWERS 四季』には作中劇が数回登場する。
この作中劇自体がおもしろく、単体で見ても充分満足できるクオリティを備えている。
シナリオも良いし、声優の熱演がすばらしい。元のキャラクターの個性を保持したまま、蘇芳は蘇芳、えりかはえりかとして作中劇の「役」になりきる演技がとても良かった。
可憐なキャラクターデザイン
スギナミキ氏の描くキャラクターは可憐だ。
立ち絵でも表情が豊かに変化する。
蘇芳や立花は初めは表情が硬かったが、仲間と打ち解けていくにつれ、素直に感情表現できるように変わっていた。それが表情に表されている。
塗りも水彩画のように淡く繊細で、それが思春期ならではのデリケートな雰囲気を作り出している。
『FLOWERS』では春夏秋冬で制服が変わる設定となっている。
この制服が襟の形やスカートのプリーツなど特徴的なところでは共通するデザインを残しつつも、季節に応じて細かな変化をつけており、凝っている。
どの制服もかわいいけれど、ハイウエストスカートの秋制服、シックな冬制服が素敵!
しっとりと美しい音楽
『FLOWERS 四季』は音楽も優れている。
霜月はるかが歌うOP「FLOWERS」は美しいストリングスとピアノ、ボーカル、サビでスピード感を生むドラムが印象に残る。
BGMもピアノやストリングス、ギターをメインとして、全体として統一感ある凛としたイメージを保っている。
場面に合わせて軽やかな曲やシリアスな曲まで、幅広く使用されており、どれも良い。
筆者は不穏な「トワイライト」ピアノが印象的な「目覚め」が気に入っている。
ミッションスクールだけに歌がシナリオに絡んでくるのも良い!
プレイヤーファーストのシステム
システム面も昨今のアドベンチャーゲームに必要な機能を備えている。
- 選択肢ジャンプ
- ボイス登録
- エンドリスト
- 高速スキップ
ルートも分かりやすく、画面右下の花が咲くように進めていけばグッドエンドにたどり着けるようになっている。
選択肢を押したあと、
- 花が緑に光れば、開花に近づく
- 花が黄色に光れば、蕾のまま
と分かりやすい作りだ。
プレイ時間は38時間
筆者のプレイ時間は四季合計で38時間。各季節9~10時間だった。
1つの季節だけでは若干物足りなく感じたが、すべてプレイしたあとは充分満足できるボリュームだ。
各季節は気になる終わり方をするため、自然と次の季節に進みたくなる作りになっている。
蘇芳から主人公がチェンジする夏、秋もクリア後に現れる蘇芳視点のシナリオをプレイすることで、メインストーリーでは明かされないシーンを見ることができ、春から冬まで約1年に渡る事件を整理できるのもよかった。
総合評価
総評:傑作
5/5
『FLOWERS 四季』は非の打ちどころがないパーフェクトな百合ミステリィアドベンチャーだ。
スギナミキ氏の描く淡く儚げなキャラクターと志水はつみ氏の硬質な文体、ストリングスとピアノが印象的な音楽は相乗効果を生み、どこか浮世離れした美しさを作り出している。
少女たちの心の機微を丁寧に描写したからこそ、それぞれが抱える問題に対し、何度もくじけそうになる者、心の奥底に抱えてジッと耐える者、仲間から気づきを得た者、それぞれの「成長」が心に残った。
ミステリィとしても「日常の謎」を上手くシナリオに組み込んでおり、伏線の張り方も丁寧で、読者に対してフェアである。(春篇は一部読者の知識が試されるが)
すべてにおいて優れており、百合好きはもちろん、テキストアドベンチャーファンにおすすめのタイトルだ。
- スギナミキ氏の美しいイラスト
- 志水はつみ氏の硬質な文体
- 日常の謎を生かしたミステリィ
- 特になし
『FLOWERS 四季』
- 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation 4
- 発売日:2019年11月28日(Switch)、2019年3月7日(PS4)
- 発売元:プロトタイプ
- 開発元:Innocent Grey、Gungnir
- ジャンル:百合ミステリィアドベンチャー
- シナリオ:志水はつみ
- 原画:スギナミキ
- 筆者プレイ時間:38時間
- レビュー時のプレイ機種:PS4
※2023年4月27日時点
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