『everlasting flowers』は少女たちの成長を描くノベルゲームだ。
学校に馴染めなかった深菜が自室にこもるようになってから1年。何かを変えるために向かったアルバイト先のペンションで同い年の蘭と出会う。自分と正反対の彼女に苦手意識をもっていたが、一緒に過ごすなかで、ふたりの絆は強く結ばれていく。
大人になった今、もう青春ものは楽しめないんじゃないかと思っていたが、そんな先入観はプレイし始めてすぐに吹き飛んでいった。深菜と蘭、仲間たちの姿に泣き、笑う。ここまで感情を揺さぶられる作品は数少ない。ずっと心に残る作品に出会えたことがうれしかった。
本記事では『everlasting flowers』のあらすじや登場人物を紹介し、ゲーム内容をレビューしていく。
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本記事はspriteから商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
坂下深菜は進学した有名女子校でクラスに馴染めず、不登校になり、自宅にこもりきりの日々を過ごしていた。




2年目の夏、息苦しい日常から抜け出すためにペンションで住み込みのアルバイトをはじめる。


そこで出会った同い年の星野蘭やペンションの人たちと過ごす時間は深菜の心に大きな変化をもたらす。


登場人物
坂下 深菜 (CV.上田 麗奈)


高校生、17歳。
何事もネガティブに考えてしまう性格。
中学までは友だちと楽しく過ごしていたが、高校でやっとできた友だちに陰口を言われ、心を閉ざした。
逃げ場を求めてペンションにやってきた。
星野 蘭 (CV.Lynn)


高校生、17歳。
少々のことでは動じない。
その場にいるだけで空気が明るくなるような少女。
成瀬 陽毬 (CV.富田 美憂)


中学生。
美智子と一緒にペンションを切り盛りしている。
いつも元気な、しっかり者。
柳瀬 美智子 (CV.宮寺 智子)


ペンションの責任者。
少女たちをやさしく見守る。
橘 紗波 (CV.斎藤 千和)


大学生、18歳。
お客としてペンションにやってくる。
涙なしには見られない!深菜と蘭の深い絆
本作は深菜の独白からはじまる。
中学生までの楽しかった日々を経て、引っ越しで友だちと離れ、有名進学校に入ったこと。内部進学ばかりのクラスで唯一の外部生として孤独を味わったこと。やっとできた友だちに裏切られたこと。


それらは深菜の心情を写し取ったようなモノクロの世界のなかで、感情を失った淡々とした口調で語られる。読み進めるごとに、言葉が心に突き刺さった。



エンタメで泣くことなんて滅多にない私がこんなに早く泣かされるなんて……。
ペンションにやってきた深菜は、同い年の蘭と出会う。天真爛漫な振る舞いを見て、苦手なタイプだと当初は距離を取っていた。
深菜にとって、学校や高校生は恐怖の対象であり、ツラい記憶を呼び起こしてしまうもの。しかも、クラスの中心にいそうな子が来たら避けてしまうのも当然だろう。




しかし、蘭はそんなことお構いなしに距離を縮めてくる。裏表なくハッキリとした態度で接してくれる蘭に深菜は自然と心を許していく。
作中で深菜が制服が似合わないから着たくないと言うシーンがある。その言葉を聞いた蘭は以下の言葉を返す。
「他の誰が何て言おうと、判断するのは私自身。誰かが似合っていないって言っても、私が似合ってると思えば似合ってるんだよ」
『everlasting flowers』Chapter2 Rassembler
他人からどう見られるかを考える深菜と自分がどう思うかを考える蘭。武装としてメイクを施し、制服を着せると蘭は「深菜かわいい、似合ってる」と告げる。その言葉に嘘がないことはもう深菜にもわかっている。




一緒に過ごす日々のなかで、深菜は失っていた自信を取り戻していく。すべてが上手く進むわけではなく、ときには喧嘩をして傷つき、もうダメかと思う場面もある。それでも諦めずに前に進もうとする少女たちの成長した姿に胸が熱くなった。







安直だから言いたくないけど、マジで泣けた!



あなた完全に保護者目線だったわね。
ふたりを支えるかけがえのない仲間たち
ふたりの少女をあたたかく支えるキャラクターも大好きになった。
ペンションを手伝う”先輩”である陽毬は中学生ながら、すでにベテランの安定感。テキパキと仕事する姿は決まっているのに、仕事を離れるとちょっとやんちゃな女の子といった振る舞いでかわいい。


両親と祖母が残したペンションへの想いは強く、陽毬の誠実さやたくましさは、深菜にも大きな影響を与える。深菜が誰を信じればいいのか分からなくなったとき、そばにいてくれる存在だ。深菜と手をつないで歩く姿は姉妹のようで、陽毬がいてくれて本当に良かった。
陽毬と一緒にペンションを切り盛りしている美智子はみんなの保護者的な存在だ。


少女たちが悩んでいても、安易に手を差し伸べるのではなく、ときには突き放すような姿勢も見せる。冷酷に聞こえる言葉があっても、それはすべて彼女たちの将来を考えたものだ。信頼のおける大人がいることが心強いと感じた。


出番は少ないが、紗波も重要な役割を果たす。


目の前のことだけを考えてしまう深菜と蘭に対して、紗波はより広い視野で物事を考えることの重要性を伝える。素っ気なく感じる部分もあるが、ふたりの将来を真剣に考えて言葉を選んでいることが伝わってくる。彼女の存在がストーリーに大きな変化を生み出している。
3人とも深菜と蘭のことが大好きで、この後の人生を良いものにしてほしいという想いが言葉や行動に現れている。なんて素敵な人たちに囲まれていたんだろう、私もこんな3人と一緒に夏を過ごしたい!とうらやましく思った。深菜と蘭の明日を変えるには誰もが欠かせないキャラクターだった。



美智子さんがめちゃくちゃカッコよくて、こんな大人になりてぇー!と思いました!憧れ!
圧倒的なイラストCG数と感情移入しやすくなる仕掛け
本作の特徴といえるのがイラストCGの多さだ。
プレイ開始から20分近く立ち絵が出ず、CGのみで物語が進んだ。1枚ずっと使うのではなく、シーンによっては1クリックで次のCGに進むところもある。かなり贅沢な使い方だ。



クリア後に解放されるCGギャラリーでポチポチCGを見ていくだけで30分かかった!



ストーリーの進行に沿った並びになっているからCGギャラリーだけでも物語を反芻できるのね。
次々に映し出されるCGはキャラクターを映し出すのにとどまらない。
ペンションの看板や店内の照明器具、窓から見える空、おだやかな海岸。テキストで描写されることが少なく、見逃してしまうような何気ないものにもフォーカスを当てている。




それはなぜかと考えたとき、深菜の胸の内を聞き、言葉を聞くだけじゃなく、深菜の目に映るものを同じ視点で、プレイヤーに見てほしかったのではないかと思った。
多くのCGを切り替えながら映し出すことでドラマチックな表現を作り上げただけでなく、深菜に感情移入して作品をさらに深く味わってほしい。そんな願いもこめられていたのだろう。



クリア後もペンションのいろんなものが目に浮かんで、なんかうれしかった!
初期設定ではテキストウィンドウがない状態+右上のメニュー表示も最小限に抑えられている。クリックしないまま少し時間が経つとメニューが非表示になるため、オートモード中に表示されるのはテキストだけだ。画面上のUIをそぎ落とすことで、作品への没入感が高まった。




プレイ時間は6時間、無駄なシーンは一切なし。濃厚なプレイ体験
筆者はボイスをすべて聴きながら読み進め、最終的なプレイ時間は6時間だった。本作には選択肢がないため、読み進める時間によってプレイタイムが異なるだろう。
ノベルゲームとして6時間は短い部類に入るが、ダレるシーンは一切なかった。無駄を極限までそぎ落とすことで、かなり濃厚なストーリーが味わえた。
じっくり腰を据えてゲームをプレイする時間を捻出するのが難しいプレイヤーでも遊びやすいボリュームと言える。



時間に追われて生活しているあなたにピッタリ!
総合評価
『everlasting flowers』は女の子たちの成長を描いたノベルゲームだ。
どん底にいた深菜が何かを変えたいと向かったペンションで、心から信頼できる人たちと巡り会う。蘭をはじめ、みんなと一緒に過ごすことで、どんどん自信を取り戻していく深菜の姿に涙があふれた。
深菜と蘭をそっと抱きしめるように支えてくれる陽毬、美智子、紗波の人間性に強く惹かれ、作品に登場するキャラクターすべてが愛おしく思える。
圧倒的な数のイラストCGと感情に強く訴えかけるピアノを基調とした音楽によって、作品に深くのめり込めた。
青春ものから遠ざかりつつある大人のプレイヤーにこそおすすめしたい傑作だ。
- 泣けるストーリー
- すべてが愛おしいキャラクター
- イラストCGをふんだんに使った没入感のある演出
- 特になし
『everlasting flowers』
- 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation 4、PC
- 発売日:2024年8月29日
- 発売元:RIGHTWAY
- 開発元:sprite、flowers.studio
- ジャンル:青春アドベンチャー
- 原画・アートディレクター:Suzumori
- 脚本:四葩
- 筆者プレイ時間:6時間
- レビュー時のプレイ機種:PC
※2024年9月14日時点