『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』は閉鎖的な学園を舞台にした百合ミスティックホラーアドベンチャーゲームだ。
外界から隔絶された学園・プエラリウムに突如として現れた少女・アルエット。彼女の存在は規律に縛られたプエラリウムに大きな混乱をもたらし、女生徒たちは禁じられた恋に心を支配されていく。
耽美なテキストと美麗なビジュアル、重厚な音楽によって作り出される退廃的な世界観。ミステリーを軸としてSFやホラーのテイストを散りばめたストーリーに心奪われる、傑作長編百合作品だ。
本記事では『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』のあらすじ、登場人物を紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
あらすじ
外部から隔絶された学園・プエラリウムでは厳しい規律に縛られ、少女たちが共同生活を送っていた。
礼賛の日。礼賛祈堂内で不気味に佇む”大いなる乙女像”の前で一同が祈りの言葉を唱和している最中、裸の少女が現れる。
彼女が”アルエット”と名乗ると、鐘が鳴り響き、礼賛祈堂には混乱が広がった。
「時計塔の鐘が鳴り響く時、この学園に遠からぬ終焉が訪れる」という言い伝えがあったのだ。
キャラクター紹介(声優)
アルエット(CV.萌花ちょこ)
突如学園に現れた少女。
適性検査の結果、入学を許された。
明るい性格で誰に対してもやさしい。
ルク(CV.あじ秋刀魚)
特進クラス主席。
感情を表す場面はほぼなく、非人間的。
アヴェルラ(CV.北板利亜)
特進クラス次席。
高圧的で、ルクやアルエットに対して敵意をむき出しにする。
ロビン(CV.かわしまりの)
特進クラス3位。
多くの時間を図書室で過ごす。
キャナリー(CV.北大路ゆき)
特進クラス4位。
おっとりとした性格。
アルエットの世話係として甲斐甲斐しく面倒を見る。
マコー(CV.鶴屋春人)
特進クラス5位。
規則を遵守する生真面目な性格。
努力家だが、要領が悪く成績はふるわない。
パヴォーネ(CV.野月まひる)
特進クラス6位。
飄々とした性格。
努力嫌いで成績はクラス最下位。
オルロ(CV.鶴屋春人)
一般クラスの生徒。
学園の事情に通じており、アルエットに噂話を教える。
レビュー
やめどきを失う、学園の謎と赦されぬ愛を描いたストーリー
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』では、SFファンタジーやミステリー、ホラーが絡み合うストーリーが展開され、その裏で”赦されぬ愛”が描かれている。
神秘的な”造化”
SFファンタジー的な要素として挙げられるのは”造化”だ。
主人公たちの学び舎プエラリウムでは造化を学ぶ。造化とは学内の装置を使用して脳内で思い描いたものを具現化することを指す。
誰にでもできるものではなく、学園は適性検査によって素質のある者を選び出し、入学させる。生徒たちは造化能力を使って人々のために働く”メイデン”を目指す。優秀な者は特進クラスで鍛えられ、トップの生徒はエヴァーメイデンに選ばれる。
虚空から物を造り出すのは神秘的であり、未来的でもある。作中では現在のパソコンのようなものが旧時代の遺物・計算機として描かれており、本作の世界が未来であることを示唆している。
造化に関連するものはSFファンタジーチックではあるが、これらはあくまで作中のエッセンスという位置づけだ。SFファンタジーが苦手な筆者でもそれほど引っかかることなくプレイできた。
数々の謎を散りばめつつも迷子にならないストーリー設計
本作の中心に据えられているのはミステリーである。
まず大きな謎となるのは主人公・アルエットだ。
謎の少女として現れたのち、他のキャラクターと同様に人となりが描かれるが、生い立ちや突然現れた理由は謎のままストーリーが進行する。
夜のプエラリウムでも数々の謎が提示される。
ある日、アルエットは眠りについた後、礼賛祈堂で目を覚ます。消灯後は外出が禁じられているため、寮に戻ろうとして白い種の欠片を見つける。拾い集めながら寮の付近まで進むと、不気味に佇む”歪んだ花嫁”と異造化した生徒に遭遇し、捉えられてしまう。するとルクが助けに現れる。
なぜ礼賛祈堂で目覚めるのか。悪しき種、白い種の欠片とは。欠片を壊すとなぜ”声”が聞こえるのか。
多くの疑問は終盤にかけて解き明かされる。緻密なストーリー作りに驚くとともに謎が解けるカタルシスがある。
夢を使って、キーとなるシーンを物語に散りばめていたところの演出効果が良かった。
夢は2階層になっており、1つは別の世界を想起させる夢。もう1つは一般クラスの生徒であるオルロが”夢の種”について含みのある会話を展開する。
アルエット自身の謎やプエラリウムの謎とリンクし、すべからく物語の真相に迫るパーツとして存在しているにも関わらず、すぐ答えにたどり着いてしまうような安易なものでない。
すべてが現実の話として描かれてしまうと物語が散漫になってしまい理解がしにくくなるが、現実の日々のなかに時折混ぜ込まれる夢によって謎への興味は深まっていく上に、挟み込まれる頻度のバランスもよいため、並行した世界が描かれても頭が混乱することはない。
多くの謎を終盤までひっぱりながらも読ませる作りは優れたストーリーのみならず、謎を見せるパートの計算された配置によって完成していた。
夜のプエラリウムに現れる歪んだ花嫁や異造化した生徒はちょっと怖いけど、純然たるホラーって感じではなかったかな。
“赦されぬ恋”に悩み揺れ動く乙女たちの心
プエラリウムでは肌の露出や他人に触れることは禁忌とされている。
脳内で想像したものを具現化するメイデンにとって誰かを想う気持ちは作る物に影響を及ぼしてしまう。人々の暮らしを支えるメイデンには「博愛」が求められ、だれか一人を特別視すべきではない。だから「恋愛」は禁忌なのだ。
プエラリウムにおいて感情を殺すことが美徳とされる。教師であるアドラーからは感情表現を感じないし、機械のように冷たく振る舞うルクの姿勢が評価されている。
マコーは森のなかで一般生徒たちの逢瀬を目撃して以降、生徒のなかで異質といえるほどスキンシップをしてくるパヴォーネへの気持ちを自覚してしまう。メイデンとしてあるべき自分と少女として恋い焦がれる自分の狭間で苦悩することになる。そして、とある出来事がトリガーとなり、抑えきれなくなった恋心が溢れ出してしまう。
その後に描かれるロビンとキャナリー、アルエットにしても一様に内に秘めた恋心がふとしたタイミングで発芽するように溢れ出す。彼女たちがパートナーに想いを寄せていく過程はやや急かされているように感じた。恋心を自覚するまでの期間にもう少し時間を割いて描写されていてもよかった。
抑圧された少女たちという設定だから、急ぎ気味なのもある程度しょうがないって感じもあるね。
少女たちが必死に恋心を抑えようとする姿は読み進めるたび、胸が苦しくなった。しかし、痛みを負ってでも彼女たちの恋の行方を知りたいと思える吸引力が本作には確かにある。
ミステリーを主として、エッセンス的に使われるSFファンタジー要素、切ない恋が効果的にミックスされたストーリーはやめどきを失うほどにおもしろく、ガッツリと心をつかまれた。
気品漂う圧倒的な美。シナリオ、CG、音楽が織りなす退廃的な雰囲気に魅了される
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』は退廃的でありながらも美しい世界が表現されている。
海原望氏のテキストは耽美な雰囲気を纏い、時として背景CGで表現されている部分においてもさらに細かに描写を重ねる。
大石竜子氏のイラストもまた、作品の世界観を大きく支えている。
特に着彩の方法が特徴的で、従来のビジュアルノベルにありがちなアニメチックパターンとは一線を画す耽美な作風だ。黒を貴重とした制服に映える髪色、透き通るような瞳の色。キャラクターをひと目見ただけで吸い込まれるような魅力がある。
CGは色彩表現豊かで、抑圧された少女たちの想いを解放するかのように輝いている。カラフルな世界のなか、濡烏のように躍動するルクには息を呑むほどの美しさを感じる。
雰囲気作りには音楽も貢献している。さっぽろももこ氏による楽曲の幅は広く、浮遊感のある「微睡み」、軽やかで揺れるフリルを想起させる「ミチル・アフレル・コボレル」、悲哀に満ちたダークサウンド「礎の乙女」など場の空気を支配する力を持っている。
松本慎一郎氏による「大いなる進化」は作品を表す鏡となる楽曲で、繊細ながらも猛々しいサウンドが流れるとゾクゾクと気分が昂揚した。
シナリオ、イラスト、音楽、どれもをとっても高い水準にあり、パーフェクトな作品と言える。
声によって完成するエヴァーメイデンの世界
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』はフルボイス作品だ。
どの配役も声がピタリとハマっていて、キャラクター像をよく表現している。
特に、アヴェルラ役の北板利亜氏、パヴォーネ&アドラー役の野月まひる氏には触れておきたい。
アヴェルラはつねに苦虫を噛み潰したような表情で高圧的に振る舞い、口を開けば嫌味が出てくるキャラクターだ。北板氏の演技によって、声を聞いただけでムカムカしてくるイヤな女像が確立されている。
パヴォーネはおっとりとしたしゃべりが特徴的で感情の起伏が少ないキャラクターだ。テキストだけと見るとその独特でゆっくりとした話しぶりは想像しにくいが、野月氏がセリフをしゃべるたびにパヴォーネの飄々としたキャラクターが形作られていく。
野月氏は教師・アドラーも担当している。こちらはパヴォーネの性格とは真逆のキャラクターだ。靴底を鳴らし、生徒を萎縮させるような高圧的な態度で放つ言葉は冷徹、人の心など感じられない。プレイ中は同じ声優が演じているとは気づかず、エンドロールで名前が流れてきたときに大きな驚きがあった。
筆者は作品によってはボイスを飛ばしてしまうこともあるが、本作のボイスはじっくりと聞きたいと思えるクオリティで、なくてはならないものだった。
没入感を高めるシステム
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』はテキストを読み進めていき、選択肢によってエンディングが分岐するマルチエンディング方式を採用している。
午後の自習時間になるとプエラリウムのマップが表示され、各施設にいるキャラクターを選ぶとショートエピソードが見られる。一息つけるポイントであり、集中して読み進めているプレイヤーの気分転換にもなる。
選ぶ順番は気にしなくてOK!
各章の佳境に入ると白い種の欠片を集めるパートがはじまる。画面に映し出された夜のプエラリウムマップのなかでカーソルを動かし、白い種の欠片を見つけていくもので、欠片を破壊すると異造化した者たちの心の声が聞ける。
カーソルを動かしていれば見つかるから難しくないよ!
作中のアルエットと同じく、白い種の欠片を集めることでプレイヤーが作品のなかに入り込めるように作られており、細切れの記憶を集めてキャラクターの本心をパズルのように組み上げていくのがおもしろかった。
その他、ノベルゲームとしてのオプションは一通り用意されていた。プレイに支障は感じなかったが、個別のボイス設定などはないため、こだわりがある人は注意が必要だ。
バックログが一覧表示じゃなくて、一つ前の会話が表示されるのが気になったかな。
プレイ時間は15時間
筆者のプレイ時間は15時間。
キャラクターのボイスをすべて聞いた上で、後述するエクストラシナリオ、アペンドシナリオのプレイ時間も含んでいる。
ダレずにプレイできるほどよい分量だと感じた。
本編だけなら14時間20分ぐらいかな。
できたらプレイしておきたい!エクストラシナリオ・アペンドシナリオ
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』には複数の追加シナリオが用意されており、特定のエンディング後に解放される。
- エクストラシナリオ:懐胎
- エクストラシナリオ:悪夢と救済
- アペンドシナリオ:誰がための祝祭
エクストラシナリオ:懐胎はもとから用意されているもので、アルエットとルクの”仲睦まじい”様子が描かれる。
エクストラシナリオ:悪夢と救済は萌えゲーアワード2022年2月の月間賞を受賞したお礼として公開されたもので、Liar-softの公式ページからダウンロード可能だ。ある日のルクと教師・アドラーが描かれている。
アペンドシナリオ:誰がための祝祭はLiar-softファンクラブ通販限定で配布されていたもので、アルエットが何かを祝うために準備しているところを皆が手伝うストーリーだ。エンディング後の世界が描かれるのが貴重であり、微笑ましい様子が描かれるのも良かった。
総合評価
総評:傑作
5/5
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』は優れた百合ミスティックホラーアドベンチャーだ。
耽美的なテキストや美麗なイラスト、重厚な音楽から形作られた世界観は退廃的な雰囲気を纏い、声優の演技によって完成するキャラクター像と合わせて、プレイヤーを魅惑の世界へと引きずり込む。
ミステリーを主軸としてSFファンタジーやホラーがエッセンス的に織り交ぜられたシナリオはやめどきを失うほどおもしろく、少女たちが恋に苦悩する様子には心が痛んだ。
通常のノベルパートの合間にマップの選択や白い種の欠片を拾うパートを入れ込むことで、プレイヤーがアルエットに自分を投影するような没入感を高めていた。
本作の完成された退廃的な世界観をすべての人に味わってほしい。全百合ファンにおすすめのタイトルだ。
- 完成された退廃的な世界観
- グイグイ読ませるシナリオ
- 没入感が増すゲームシステム
- なし
『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』
- 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation 4、PC
- 発売日:2023年4月27日(Switch/PS4)、2022年2月25日(PC)
- 発売元:エンターグラム(Switch/PS4)、Liar-soft(PC)
- 開発元:エンターグラム(Switch/PS4)、Liar-soft(PC)
- ジャンル:百合ミスティックホラーアドベンチャー
- 企画・シナリオ:海原望
- 原画・キャラクターデザイン:大石竜子
- 筆者プレイ時間:15時間
- レビュー時のプレイ機種:PC(Ver1.1 for FC)
※2023年4月22日時点