『アオイシロ HD REMASTER』は和風伝奇アドベンチャーゲームだ。
PlayStation2向けに発売された『アカイイト』の姉妹作として2008年にPlayStation2版、Windows版がリリースされている。
本記事で紹介するHDリマスター版は2023年にNintendo Switch/PC向けタイトルとして発売された。
剣道部の部長である小山内梢子が合宿で訪れた土地で出会う者との交流を経て、忌まわしい伝説に翻弄される。前作の雰囲気を引き継ぎつつ、より伝奇色の強い作品であった。
本記事では『アオイシロ HD REMASTER』のあらすじ、登場人物を紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
姉妹作 『アカイイト HD REMASTER』のレビューを読む
本記事はサクセスから商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
剣道部の部長である梢子は、部員たちと合宿地である卯奈咲を訪れた。
宿泊先となる咲森寺に足を踏み入れた途端によみがえる、赤い椿の記憶……。私はここに来たことがある?
深夜、波音で目覚め、浜辺に向かうと、少女が打ち上げられていた。彼女をきっかけに鬼退治の伝説が残る卯奈咲で、新たな伝説が生まれる。
キャラクター紹介(声優)
小山内 梢子 (CV.日髙 のり子)
主人公。青城女学院2年生。
上級生の引退に伴って剣道部の新部長兼エースとして活躍している。
堅物。
ナミ (CV.佐藤 利奈)
合宿先の近くの海に打ち上げられていた少女。梢子たちよりも幼い。
言葉がしゃべれず、名前が分からなかったため、ナミと名付けられる。
相沢 保美 (CV.山口 立花子)
青城女学院1年生。
虚弱体質のため、剣道部ではマネージャーとして活動している。
料理が上手で、合宿の料理番としても活躍。
喜屋武 汀 (CV.藤村 歩)
梢子と同世代の少女。飄々としたタイプ。
合宿先である咲森寺で一緒に過ごすことになる。
カヤ (CV.清水 香里)
封じられていた剣を奪い、卯奈咲に現れた剣鬼。
コハク (CV.瑞沢 渓)
年齢不詳、すべてが謎に包まれた狩衣姿の人物。
レビュー
鬼ヶ島で行われる秘祭
本作は前作『アカイイト』よりさらに伝奇的な性質が色濃い。
梢子たちの合宿先である卯奈咲には鬼ヶ島と呼ばれる島(卯良島)がある。宿泊する咲森寺の近くの浜辺からその姿を確認できるが、この時期は秘祭が行われるため、船の運行もなく、島に向かう唯一の経路である鬼の踏み石は誰も通ってはいけないことになっている。
合宿初日から鬼ヶ島、秘祭、禁足地、鬼の踏み石と“いかにも”なワードが飛び出し、この先に起こる不吉な出来事を予感させる。
固有名詞や古語が多く登場し、とっつきにくいように思えるかもしれないが、そういう心配はない。物語に入り込みやすいように、冒頭からさまざま工夫がされている。
そのひとつが「鬼ヶ島の伝説」の語りだ。ゲームをはじめると、流れてくるのは昔ばなし。唐突さに驚きを感じたのもつかの間、幽玄な音楽と芝居がかった語り口、絵巻物のようなビジュアルによって彩られた昔ばなしは興味深く、筆者はすぐに惹き付けられた。
冒頭の語りによって、プレイヤーは歴史を絡めたストーリーを読み進める準備ができ、物語の世界に没頭できる。
物語に入り込んだが最後、徐々に積み上げられていく謎に興味をそそられ、各ヒロインのルートはエンディングまで一気にプレイしてしまった。謎が解き明かされていく終盤には手に汗握る熱い展開がある。大円団を迎えたあとには充足感があった。
このキャラクターはあの歴史上の人物になぞらえてるのかー!って気づいたときは驚いたなー!
個性豊かなキャラクターたちを前に、梢子が見せる二面性
梢子の相手となるのはナミ、保美、汀、カヤ、コハクの5人。
ナミは浜辺で見つかったところから人魚を思わせ、神秘的なイメージを感じさせる。言葉が話せないながらも梢子や保美と触れ合うときには表情や仕草で甘えてみたり、親鳥についていく小鳥のようでかわいらしい。
保美はヒロインのなかで唯一、合宿前から梢子と過ごしていた少女で、最初から梢子ラブの念が全開。他のヒロインと梢子がちょっとなにかしているだけで、ふくれっ面を見せるのが子どもっぽくて愛らしい。
汀は飄々としたタイプで、梢子自身が苦手と言うように、水と油の関係。肝心なところではキリッとした真面目モードに入るところもあり、なんだかんだで梢子も一目置いている。
カヤはストーリーを追うごとに見せる表情が変化していくのが楽しい。コハクの浮世離れしたしゃべりや華麗な戦闘もカッコよく映った。
サブキャラクターにも見どころのある少女がいる。
剣道部の1年生で保美のルームメイトである百子は元気全開のおしゃべりな少女。とにかくしゃべり、動き続け、ド派手なリアクションが印象に残る。
シリアスな展開のなかで百子が出てくるとその場がパッと明るくなり、ほっこりした気持ちになる。本作には欠かせないキャラクターだ。
お嬢様然とした副部長・綾代もおしとやかな感じでかわいかったなー!
それぞれが違った魅力を持つヒロインたちに対して、主人公・梢子はどうだろうか。
前作『アカイイト』の主人公・桂は非力で守ってもらう存在でありながら、時には相手を守ろうとする気持ちの強さがあった。
一方で梢子は剣道の実力者であり、自らの身を守る術を持っている。魍魎や鬼と対峙する場面でも霊験あらたかな木刀・蜘蛛討ちを構えて立ち向かっていく。性格も真面目で責任感のあるタイプで、完璧超人に見える。
好意にめちゃくちゃニブイとか難点がないわけじゃないけどね!
いくら強いとは言っても、人間と鬼ではさすがに分が悪い。梢子が苦境に陥る度に助けてくれるのがヒロインたちだ。心を許せる存在を前にすると梢子のヒロインたちへの秘めた思いがあふれ出す。
梢子のキリッとした姿と不慣れに甘える姿のコントラストが印象的で、そこには年相応の少女の姿が垣間見え、胸がキュンとなった。
愛が深まる過程はやや駆け足気味な部分もあったが、距離を縮めていく過程で梢子とヒロインの心の表情が変化していく姿は美しかった。
魅惑の「吸血シーン」
さらに妖艶さを増した“吸血”も見逃せない。
前作にあった血液ゲージは廃止されたが、吸血シーンは健在で本作でもさまざまなCGイラストが収録されている。
なかにはそんなところから吸うの!?と驚くこともあり、吸血シーンはシリアスさをも吹き飛ばすほど魅力的だった。
吸血以外でも見どころが!
ルート封印と数が増えたエンディング
一部のキャラクタールートには”封印”が配置されており、別キャラクターのエンディングや特定の選択肢によって封印を解除しなければならない。
封印の解除は画面に表示され、進行可能になったルートも分かる作りになっている。
本作のエンディング数は56とかなり多く、すべてを見るのはなかなか大変だった。似たようなバッドエンドに当たることもあり、エンディングの数はもう少し絞っても良かったと感じた。
分岐図(フローチャート)もあるが、必ずしも直前の選択肢がエンディングに影響したとも言えないため、難しさを感じたら攻略サイトを見てしまうのも一手だ。
プレイ時間は25時間
筆者のプレイ時間は25時間。
一部でキャラクターボイスを飛ばしたり、行き詰まって最初からやり直したりしながら、すべてのエンディングに到達した時間だ。※収録された外伝2本を含む。
外伝では『アカイイト』のキャラクターも登場するよ!
すでに攻略したキャラクターについて気になっていた事柄が、他のキャラクタールートで明らかにされることもあり、プレイするたびに気づきがあったことで、ボリュームの多い本作も楽しめた。
バッドエンド地獄に入ったときは心が折れかけたけどね!
意地張ってないでさっさと攻略見なさい!
無印版で収録されていたミニゲーム「鬼切りの鬼」もプレイ可能だ。
『アカイイト』の鬼切りの鬼エンドから派生した横スクロールアクションで、羽藤桂を操作して敵を切り倒しながらクリアを目指す。収録されているのは3面で、ボス戦では馴染みのあるキャラクターも登場する。
アクションが苦手なプレイヤーは苦戦するかもしれないが、御札をキープしながらさっさとボス戦に向かい、壁ハメすればなんとかクリアできるはず。クリア後はゆるキャラ化した桂のイラストが流れる。
ステージにあるアイテム(携帯電話)を取るとサクヤが助けにきてくれるよ!
総合評価
『アオイシロHD REMASTER』はスケールの大きい百合和風伝奇アドベンチャーだ。
鬼ヶ島の秘祭にまつわる伝説を過去から現在へと情感たっぷりに描き、次から次へと展開されていくストーリーは飽きを感じる暇もないほどのめり込んでいく。終盤に訪れる怒涛の展開には思わず手に汗を握った。
ヒロインとの関係性が愛情に至るまでの過程はやや駆け足気味だが、甘える/甘えさせるという梢子の2つの表情が描かれていたのがかわいらしかった。
膨大なエンディングのなかには重複する内容も見られるが、スケールの大きな伝奇作品かつ百合作品としてプレイしておきたいタイトルだ。
- 難解なのにスッと入ってくる伝奇ストーリー
- 二面性のあるキャラクター造形
- 魅惑の吸血シーン
- 類似のバッドエンドが多い
『アオイシロ HD REMASTER』
- 対応機種:Nintendo Switch、PC
- 発売日:2023年5月25日
- 発売元:サクセス
- 開発元:サクセス
- ジャンル:和風伝奇ホラーアドベンチャー
- シナリオ:麓川智之
- 原画・キャラクターデザイン:Hal
- 筆者プレイ時間:25時間
- レビュー時のプレイ機種:Nintendo Switch
※2023年7月23日時点
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本作と合わせておすすめしたいのが、姉妹作である『アカイイト HD REMASTER』だ。”贄の血”をめぐる人と鬼の争いや桂とヒロインたちの絆、艶っぽい吸血シーンなど見どころ盛りだくさんの作品なので、ぜひチェックしてみてほしい。