『アカイイト HD REMASTER』は和風伝奇ホラーアドベンチャーゲームだ。
2004年にPlayStation2向けタイトルとして発売されたのち、19年の時を経てNintendo Switch/PC向けにHDリマスター版がリリースされた。
ストーリーは”贄の血”を引く主人公・羽藤桂を中心として、桂を狙う者と守る者の思惑が交錯する。百合ジャンルの和風伝奇作品としては不朽の名作だ。
本記事では『アカイイト HD REMASTER』のあらすじ、登場人物を紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
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姉妹作 『アオイシロ HD REMASTER』のレビューを読む
本記事はサクセスから商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
母を亡くした高校生・桂は、生まれ故郷である経観塚を訪れた。亡き父の実家である日本家屋を相続するかどうか現地を見にきたのだ。
家の近くにある巨大な槐の木。
たしか夢のなかで見たような……あの夢はなんだったのだろう? 夢に出てきた女性は一体……。
桂の来訪をきっかけに止まっていた歯車が動き出し、縁がつながっていく。
キャラクター紹介(声優)
羽藤 桂 (CV.松来 未祐)
主人公である女子高生。
人を疑わない素直な性格。のんびりとしているが、芯は強い。
落語や時代劇を好む一面も。
ユメイ (CV.皆口 裕子)
桂の夢に出てくる女性。
蝶とともに現れ、おだやかな口調で桂に語りかける。
若杉 葛 (CV.釘宮 理恵)
桂の父の実家に住み着いていた少女。
見た目は幼いが、言動は大人びている。
浅間 サクヤ (CV.真田 アサミ)
ルポライター兼フォトグラファー。年齢は不詳。
桂の母の友人で、何かにつけては桂の面倒を見ている。
千羽 烏月 (CV.渡辺 明乃)
経観塚の駅で桂と出会う同世代の少女。
制服を身にまとっているが、その正体は鬼と対峙する鬼切り役。
ノゾミ&ミカゲ (CV.小林 恵美)
鈴の音とともに桂の前に現れる鬼の姉妹。
傲慢な姉・ノゾミとそれに従う妹・ミカゲの双子。
レビュー
人と鬼の過去と現在が交差する激アツストーリー
作品の魅力は”贄の血”をめぐるスペクタクルな展開とトゥルーエンディングのカタルシスだ。
物語がはじまって早々、贄の血を引く桂は双子の鬼・ノゾミとミカゲに襲われる。鬼にとって贄の血は貴重なもの。普通の人間の血とは比較にならないほど鬼の力を増幅する効果があるのだ。
桂を守るために現れるのがユメイや烏月、サクヤ、葛の4人だ。彼女たちは桂を軸につながっており、それぞれが秘めた過去の記憶を紐解きながら、経観塚に伝わる山神と人柱の伝承に迫っていく。
全編にわたって散りばめられた謎が徐々に明らかになっていくことで、物語への関心が尽きず、自然と読ませる作りになっている。また、結末に向けて物語が動いたときのカタルシスが見事だった。
ストーリーは遥かな時空を超える。なかには、古い時代から脈々とつながる”業”に縛られる者も……。
かんたんに善悪を判断できない、それぞれの行動原理をプレイヤーに提示することでキャラクターを多面的に描き、人としての深みを感じさせる。
すべてのエンディングを見た後も、作品の世界に浸っていたいと思える。余韻も含めて素晴らしいシナリオだった。
誰かひとりなんて選べない!魅力的なキャラクターたち
桂の相手となるのは5人。ユメイ、烏月、サクヤ、葛、ノゾミだ。
筆者はキービジュアルからしてユメイ一択と思っていたが、キャラクターたちと接するうちにそれぞれの魅力や桂との強いつながりが見えてきて、愛着を感じた。
誰もが不器用で、素直に愛情表現できるタイプではない。世界の中心に桂がいて、たとえ自分が傷ついたとしても桂を守るんだという思いの強さが彼女たちを引っ張っていく。
ユメイは常に桂のことを第一に考えて、やさしく包み込んでいる。敵対する者が現れると一転、キリッとした表情になるところから桂を守る意志の強さ、芯の強さを感じさせた。
包容力のある和服女性……完璧にツボです!
烏月は鬼切りの任務遂行のため、周りに人は置かないと桂を遠ざける。堅物さゆえにとっつきにくい印象があったが、桂と行動するようになり徐々に内面が変化し、そのギャップに桂はドキッとさせられる。
葛は陽気なトーンで雑学をスラスラと語る姿は幼さも感じさせるが、知識の豊富さは大人びていて、まさに人間用語辞典。
サクヤは桂をからかうことも多いが、その裏にある深い愛情が随所に感じられた。ダークな物語のなかで、サクヤのカラッとした性格からくる豪快な振る舞いには安心感を覚える、貴重な存在。ザ・姉御。
ノゾミは笑顏で冷酷なことを言い放つ邪悪さと無邪気な部分を併せ持つ。ノゾミとミカゲが現れると本作のホラー要素が強調され、緊迫感が漂う。
私の推しはノゾミ!傲慢なところがかわいいの!
ユメイ、ノゾミって……和服に弱いだけじゃないの?
各ルートを見ていくと何の力も持たない桂は守られるべき弱い立場でしかない印象がある。しかし、桂は自分の弱さを受け入れた上で、信念を持って彼女たちを守ろうとする。そして彼女たちが強く結ばれるからこそ、力を増幅していく。これはまさしく愛の力であり、恋愛感情を伴った百合作品であることを強く感じさせた。
各ルートをクリアするごとに作品の全体像が見えてくる作りなのもよかった!
「吸血」ってこんなに官能的だったのか!
本作におけるもう一つの魅力が”吸血”だ。
贄の血によって力を得る者たちはさまざまな状況で桂の血を吸う。桂が血を失うと画面右上にゲージが表示される。
多くのCGイラストが用意された吸血シーンにはグロテスクな要素はほぼない。テキストや音声を含めて、かなり艶っぽいものとなっている。
選択肢で「血を飲ませるか」表示されるが、つい、吸血シーン見たさに「飲ませる」ほうを選んでしまった。
刮目せよ!
ルート封印とマルチエンディング
本作には”ルート封印”が配置されており、特定のキャラクタールートやエンディングを迎えるためには封印を解除する必要がある。
封印が解かれたときにはその旨が画面に表示され、どの部分のシナリオが解放されたのかも分かるため、ある程度はプレイヤーフレンドリーになっている。
本作のエンディング数は32とかなり多く、早々にバッドエンドになるものから各キャラクターのトゥルーエンドまでバラエティ豊かだ。
分岐図(フローチャート)や結末一覧は攻略の役に立つこともあるが、直前の選択肢がエンディングに直結しているとは限らないため、行き詰まった場合は、封印や選択肢を含めて攻略サイトなどを参考にすると良いだろう。
プレイ時間は18時間
筆者のプレイ時間は18時間。
一部でキャラクターボイスを飛ばしたり、行き詰まって何度か同じルートをやり直したりしながら、すべてのエンディングに到達した時間だ。
物語が次々と展開していくため、プレイ時間を気にすることなく、一気にプレイできた。
真面目なものからおふざけ系まで用語辞典はかなりボリュームがあったな……。
用語辞典を読むだけでも結構時間がかかりそうね。
総合評価
『アカイイトHD REMASTER』は完成度の高い百合和風伝奇ホラーアドベンチャーだ。
”贄の血”をめぐる人と鬼、過去と現在が絡み合う展開はスペクタクルであり、謎と解のバランスが絶妙で飽きずに楽しめた。トゥルーエンドまで到達したときのカタルシスとその余韻は忘れがたい。
キャラクターは秘密を抱えており、表層的な部分との陰陽の対比が人物を多面的に見せ、艶っぽい”吸血シーン”も含めてキャラクターを魅力的に映している。
フラグ管理的な”封印”と数の多いマルチエンディングに懸念を抱くかもしれないが、一度プレイをはじめてしまえば、すべてのエンディングを見たくなることまちがいなし。
和風伝奇の世界観と百合が濃厚に絡む本作は新旧問わず、多くの百合ファンにおすすめしたいタイトルだ。
- 贄の血をめぐるストーリー
- 愛着がわくキャラクターたち
- 艶っぽい吸血シーン
- なし
『アカイイト HD REMASTER』
- 対応機種:Nintendo Switch、PC
- 発売日:2023年5月25日
- 発売元:サクセス
- 開発元:サクセス
- ジャンル:和風伝奇ホラーアドベンチャー
- シナリオ:麓川智之
- 原画・キャラクターデザイン:Hal
- 筆者プレイ時間:18時間
- レビュー時のプレイ機種:Nintendo Switch
※2023年6月14日時点
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本作と合わせておすすめしたいのが、姉妹作である『アオイシロ HD REMASTER』だ。鬼ヶ島の秘祭にまつわる伝説に立ち向かうヒロインたち、妖艶さの増した吸血など、本作が気になったプレイヤーなら楽しめる作品となっている。ぜひチェックしてみてほしい。